インフルエンサーマーケティングは近年、D2C企業において急速に普及しています。
米国では企業の約80%がマーケティングにインフルエンサーを起用しており、インスタグラムには年間で38億件のスポンサー投稿があるという調査結果もあります。
とはいえ、中小企業やフリーランスには予算の制約もあり、有名なインフルエンサーに自社商品のPRを依頼するのは困難です。
ヒカキンさんや宮脇咲良さんに簡単に頼むことはできません。
だからといって諦める必要はありません。
フォロワーが何百万人もいるマクロインフルエンサーでなくとも広告効果を得ることはできます。
むしろ投下した広告費に対する収益率はフォロワーが1万人前後のナノインフルエンサーの方が高いこともあります。
フォロワー1人あたりの売上はいくらか?
インフルエンサーマーケティングにおいて重要な指標はフォロワー1人あたりいくらの売上になったかというものです。
たとえばフォロワー数1万人のインフルエンサーにPRを依頼して10万円の売上が立ったとします。
このとき1人当たりの売上は10円ということになります。
フォロワー数100万人で500万円の売上であれば、1人当たりの売上は5円となります。
この例では前者の方がパフォーマンスは良いとなります。実際にフォロワー数と売上は正比例しませんからこのようなことは往々にして起こります。
極端なことをいえば、フォロワーが100万人いる1人に頼むより、フォロワーが1万人いる100人に頼んだほうが儲かるということです。
インフルエンサーにPRをお願いする際の費用の決め方は様々ですが、「フォロワー数×単価」という計算式が用いられることがあります。この計算式でいえば、前者も後者もかかる広告費は同じとなります。
実際のデータ分析
現実の世界ではフォロワー数の多寡によって1人あたりの収益がどう変わるのでしょうか?
それを調べたマンハイム大学ビジネススクールのマクシミリアン・バイチャート博士らの研究があります。
この研究ではEU圏内の大手D2Cファッション企業から提供されたキャンペーンのデータを分析しています。
キャンペーン内容は1,698人のインフルエンサーがInstagramでクーポンコード投稿するというものでした。
インフルエンサーごとに異なるコードを配布していますから、誰の投稿が最も購買につながったかという正確なデータを取得することができます。
この分析ではフォロワー数の多い順にインフルエンサーを並べ、上位25%を「マクロインフルエンサー」、中間の50%を「マイクロインフルエンサー」、下位25%を「ナノインフルエンサー」としました。
分析の結果、それぞれのフォロワー1人当たりの利益(売上-広告費)は以下の通りとなりました。
- マクロインフルエンサー(49,845~1,399,480人):0.049ユーロ
- マイクロインフルエンサー(8,497~49,844人):0.080ユーロ
- ナノインフルエンサー(1,219~8,496人):0.25ユーロ
(※括弧内はフォロワー数)
見て分かる通り、フォロワー数の少ないナノインフルエンサーが最も利益率が高いことが分かります。
「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」が影響
なぜフォロワー数の少ないナノインフルエンサーの方が利益率が高いのでしょうか?
一つの答えは「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」にあります。
ソーシャルキャピタルとはここ数年で注目され始めた概念で、明確に定義づけすることが難しいのですが、簡単にいうと「絆」や「信頼関係」です。
こういった関係の強さもビジネスにおいて資産とみなすことができます。
匿名の第三者のクチコミでは心が動かなかったのに、信頼できる友達からのクチコミで心が動いて購買に至ったとしたら、そこにはソーシャルキャピタルが存在していたといえます。
ソーシャルキャピタルは直接の知り合い同士に限らず有名人とファンのような間柄にも存在します。
そしてこのソーシャルキャピタルは人数が少ない時のほうが強くなるとされています。
テレビに出ているアイドルよりも地下アイドルのほうが心の距離が近く感じるといったら分かりやすいと思います。
インフルエンサーとフォロワーの間にもこの法則が当てはまりますから、フォロワー数の少ないときのほうが絆が強くなり、紹介された商品を買う意欲が高まりやすいということです。
また、フォロワー数が何百万人もいるインフルエンサーの場合、有名だから取り合えずフォローしておくという人も多いため、エンゲージメントが低いフォロワーも少なくないことが利益率の低さにつながっているとも考えられます。
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ターゲット層の見極めも重要
インフルエンサーマーケティングを依頼する際はフォロワー数だけ見ていても効果は得にくいです。
どのターゲット層に影響力がある人なのかをきちんと見極める必要があります。
電動工具を売っている会社が、ファッションインフルエンサーに依頼しても、効果は得にくいでしょう。
逆にいえば、フォロワー数が少なくとも自社の顧客層と合致するフォロワーを抱えているインフルエンサーであれば、売上アップが期待できるということです。
自社に合ったインフルエンサーを探してみてはいかがでしょう。
参考文献:Beichert, M., Bayerl, A., Goldenberg, J., & Lanz, A. (2024). Revenue Generation Through Influencer Marketing. Journal of Marketing, 88(4), 40-63.