「嫌なら辞めろ」という言葉はブラック企業の社長やパワハラ上司がよく使うものと認識されています。
確かにコンプラ違反の職場でこの言葉を使っているのならマネジメントを放棄しているだけといえるでしょう。社員に対する裏切りともいえます。
しかし、誠実な経営をしているのであれば、不満だらけの社員に「嫌なら辞めろ」と言うのは正論です。
まともな会社で真っ当な意見や改善案ではなく、ただの不満を垂れ流すのは社員側の性格の問題だからです。
この手の社員を甘やかし続けてしまうのは経営者側に疚しさがあるからです。
そしてこの疚しさが組織をダメにしているのです。
「嫌なら辞めろ」は正論である
日本は国の最高法規(憲法)で「職業選択の自由」が保障されています。
つまり、労働者が自由に好きな仕事や会社を選べる市場です。
また自由経済ですから、会社側も法の範囲内で自由に経済活動ができます。その自由には社員にどのような仕事をさせるかも含まれています。
このような市場で企業(雇用主)と社員(労働者)は自由に契約を結びます。
雇用主は「こういう仕事をしてくれる社員を募集します」といって、労働者は「その仕事をします」と納得して入社するのです。
この契約により双方に様々な権利と義務が発生します。
雇用主が得るものの一つに指揮命令する権利があります。労働者はそれに従う義務が生じます。
労働者が「嫌だ」と言って指揮に従わないのは義務を果たさないということです。
そこで雇用主が「双方の自由意思によって結んだ契約を守るつもりがないなら契約を解除しましょう」と言うのは筋の通った話です。
つまり、企業が法と契約条件を守っている限り、従わない社員に「嫌なら辞めろ」というのは正論なのです。(ただし口約束も契約ですから「ウチで成長できるよ」と言って採用したのに、無意味な仕事しかさせていなかったらそれは正論でなくなります)
筋の通った正論だからといって簡単に解雇できるかといったらまた別の話ですが…。きちんと証拠を集めれば不可能なことではありません。
仮に指揮に従っていたとしても、常に不満ばかり言っている社員に対し「自由に辞める権利も保障されているのだから嫌なら辞めたら?」と考えるのもおかしなことではありません、むしろ自然な感情といえるでしょう。
なぜ会社に不満があるのに辞めないのか?
現代は転職サイトも数えきれないほどありますから、企業情報の取得にも困りません。しかも今は空前の売り手市場です。辞めるという選択肢が簡単に取れる環境です。
このような環境において社員が「嫌だ」と思いながらそこに留まるのは矛盾した行為です。
家族を人質に取られているとかであれば別ですが、そうでないのに嫌々会社に居続ける理由はありません。
ではなぜ嫌なのに辞めないのでしょうか?
それは能力が低いので超売手市場の時代でさえ、今以上の待遇を得られる会社に行けないことを自分でも分かっているからです。
そのため、わがままを言っても許してくれる温い会社にしがみつくのです。
コンサルティング先の企業で不満ばかりの社員になぜ転職しないのか聞いてもまともな答えが返ってきた試しはありません。(※1)
「転職活動がめんどくさい」などと苦し紛れの言い訳をするくらいです。
様々な会社を見てきましたが不満を言い続けながら居座る人間が優秀だったことはありませんでした。
優秀な人間は会社や経営者に対して愛着があれば真っ当な改善案などを挙げてくれることもありますが、言うだけ無駄と判断したら早々に会社を去っていきます。
また割り切って淡々と必要最低限の仕事だけするようになることもありますが、この間にスキルアップに励み最終的に転職していってしまうことも多いです。優秀な人間は不満を言うなどという無駄なことに労力を費やさないのです。
もちろん無能な人間が何も言わずに辞めることもありますが、そのような人々のほうが不満を言いながら会社にぶら下がる社員より何百倍も立派です。
(※1 聞き方によっては退職勧奨になりかねないので気をつけてください)
経営者が「嫌なら辞めろ」と正論を言えない理由
経営者はなぜ「嫌なら辞めろ」と正論を言えないのでしょうか?
本当に言ってしまうと今の時代はパワハラですし、退職勧奨になってしまうのでダメですが…
少なくとも心の中で「嫌々働いているのになぜやめないのだろう?」と疑問が浮かんでこないのはおかしいですし、そういう心づもりで反抗的な社員に接することができないのは問題です。
なぜ「嫌なら辞めろ」という正論を持つことができないのでしょうか?
それは疚しいことがあるからです。
成長できる環境が用意できない、給料が低い、労基法違反をしている、入社前に伝えた条件と違うことをさせている…などなど。
こういった疾しさがあるため「社員が不満を持つのも仕方ないよなあ」と思ってしまうのです。
そしてその雰囲気が伝わるので社員に舐められ、彼らを増長させてしまうのです。すると会社の空気が悪くなり業績も下がるのです。
さらに仕事ができる優秀な人から辞めていくという事態も招きます。
このように経営者が不満分子となっている社員に強く出られないのは非常に危険な状態といえます。
第三者でもモチベーションは変えられるが、性格は変えられない
会社に不満を垂れ流しながら居座るタイプの社員は性格が捻じ曲がっているのです。
この性格を変えることはほぼ不可能です。
なぜなら性格は遺伝と長年過ごした環境、ピアグループ(子供時代の友人関係)によって作られるものだからです。
もちろん脳には可塑性がありますから、変わらないということはありません。
しかし、性格を変えるには本人が「変わりたい」という意思を持つ必要があります。
そのうえで認知行動療法などの専門的なトレーニングによって少しずつ変化させていくのです。
第三者からの働きかけで性格を変えるにはトラウマを植え付けるでもしない限りは無理でしょう。そんなことをすれば訴えられてしまいます。下手すれば刑事事件です。
「何年掛かろうと社員が変わるまで面倒を見続ける」という強い覚悟があるのなら別ですが、そうでないなら「いつか変わってくれる」などという期待は持たない方が良いです。
全人口の1~3%の人間は脳の問題で悪い性格がどうにもならないのです。
不満だらけの社員の性格を変えるより、証拠を集めて辞めさせる労力の方が圧倒的に小さいです。
社員が失った自身やモチベーションを改善ることはできても、社員の悪い性格を良くすることはできないのです。
まずは、「この会社に不満だらけになるのはおかしいんだよなぁ」と疑問を持てるレベルまで、環境を改善しましょう。
その環境の中で不満だらけの社員が出てきたら辞めてもらう方向で進めるべきです。
そうでないと他の優秀な社員のモチベーションが下がります。