クラウドファンディングで資金調達して開発された商品は評価が高くなる

近年、クラウドファンディング(クラファン)は製品開発の資金調達手段として急速に広まり、多くの消費者が支援者としてその成功を後押しするようになっています。

個人だけではなく企業がクラウドファンディングを利用して新商品やサービスを提供し、反響を得ているケースもあります。

クラウドファンディングのメリットとしてはアイデアさえあれば誰でも資金調達の機会が与えられ、失敗してもその資金の返済義務がないことが挙げられます。

しかし、実はそれ以上に大きなメリットがあります。

それは金融機関やベンチャーキャピタルから資金調達して開発された商品よりも、クラウドファンディングによって開発された商品の方が消費者からの支持を得やすいということです。

さらにはその後のベンチャーキャピタル(VC)からの投資を呼び込むことに一役買う可能性もあります。

今回はクラウドファンディング製品の評価がどのように形成され、企業や個人の開発者にとってどのようなマーケティング上のメリットが生まれるかを説明します。

クラウドファンディングで開発された商品の方が好まれ高値がつく

クラウドファンディングによって資金調達された商品がどのように評価されるのか、ベイズ・ビジネス・スクールのオグズ・アカール教授らが実験で調べています。

この実験では参加者に商品を提示し、それがどのような資金調達によって開発されたものかという説明を付け加えました。(VCか銀行かクラファンかということ)

そして、どの商品を選ぶか、いくらの値段をつけるかといったことを回答してもらっています。

その結果、クラウドファンディングで開発された商品のほうが選ばれやすく、高い値段をつけられる傾向にあることが分かったのです。

なぜこのような結果になったのでしょうか?

消費者を対象に行ったインタビューによって以下の理由が判明しています。

【理由1】「皆が支持しているのだから良い商品だろう」と判断する

まず、多くの消費者がクラウドファンディングによって開発された製品を「群衆の支持を得たもの」とポジティブに捉えていることが明らかになりました。

一種の「バンドワゴン効果」が生じたといえます。

バンドワゴン効果とは他人が支持しているものに対し自分も同様に支持する心理現象です。レストランで「人気メニュー」と書かれているとつい選んでしまうのもこの効果です。

クラウドファンディングでは多くの個人がその製品に資金を提供し、成功を手助けしていることが公開されているため、バンドワゴン効果が働きやすいのです。

また、消費者はクラウドファンディングを通じた支援行動を「コストを伴うシグナル」として受け取ることも確認されました。

単なる口コミや製品レビューに比べ、実際の投資を伴っているため、その支持には重みがあると見なされるということです。

「支援者が自分のお金を投入している製品ならば、本当に必要とされ、消費者ニーズに応えるものだ」と考えてくれるのです。

【理由2】消費者の中に「市場が平等になることに貢献している」という心理を生む

消費者はクラウドファンディングで資金調達された商品を購入することで、「市場が平等になることに貢献している」という感覚を得ることも分かりました。

通常、製品が市場に投入される際には、大規模な資金が必要となることが多く、資本力のある大企業やベンチャーキャピタル(VC)がその支援を担っています。

しかし、クラウドファンディングはこうした既存のモデルを打破し、個人や小規模な事業者が新たな製品を市場に出すチャンスを提供します。

このことが消費者にも「市場がより公平になっている」という満足感をもたらすのです。

とりわけ、社会的な平等性に対する意識が強い消費者ほど、クラウドファンディング製品を購入することで「市場の公平性を支えている」と感じやすい傾向が見られました。

このようにクラウドファンディング製品の購入は単に製品の質を評価する行動にとどまらず、「新たな競争機会を支えること」に繋がるため、消費者にとってもポジティブな価値をもたらしてくれるのです。

このことがVCや銀行などの既存の資金調達手段によって開発された商品よりも高評価を得やすいことにつながっています。

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支持されないクラウドファンディング

今回の実験からはすべてのクラウドファンディング製品が等しく消費者に支持されるわけではないことも明らかになっています。

特にリスクの高い製品分野、たとえば医療関係の製品やアウトドアの安全用品(例: クライミングロープ)ではクラウドファンディングによる資金調達が信頼性を損なう場合があるのです。

消費者はこうした高リスクな製品に関してはプロフェッショナルな投資家による審査が欠かせないと考える傾向が強く、大衆の支持だけでは品質を保証しきれないと感じるのです。

このため、リスクの高い製品カテゴリーでクラウドファンディングを活用する際には、専門家による審査やテストを組み合わせることで信用性を高めることも必要となるでしょう。

クラウドファンディングの歴史は古い

クラウドファンディングによる資金調達には批判も少なくありません。

「乞食」だとか「自分で稼げ」などと言われることもあります。

しかし、実はクラウドファンディングの歴史は古く、インターネットが発明される前から存在していました。

たとえば英国の詩人アレキサンダー・ポープがホメロスの『イーリアス』の訳書を出版する際には、読者から資金を提供してもらい、見返りに出版した本を渡しました。

ニューヨークにある自由の女神像も本体、台座ともに寄付によって資金を集めています。これも一種のクラウドファンディングといえます。

つまり人間というのは、自分が良いと思ったものには大した見返りがなくともお金を出したいという欲求を持っているのです。

家族や知人に出資をお願いするよりも、需要を持っている人にお願いするほうが健全といえます。

ときどき所属するコミュニティ内で「クラファンやっているので支援をお願いします」というメッセージを流している人がいますが、興味のない人にお願いすると、友達をなくすことになりますので気をつけてください。

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クラウドファンディングに成功するとVCも投資しやすい

それと余談ですが、クラウドファンディングが普及したエリアではベンチャーキャピタル(VC)の投資も増える可能性があります。

イェール大学のオラフ・ソレンソンらの調査によると、ある年にKickstarterでの資金調達が増えると、同地域の翌年のVC投資が増えるという結果が出ています。(KIckstarterはクラファンのプラットフォームです)

クラウドファンディングによって生まれた成功事例がVCの注目を集めるのです。

起業家はクラウドファンディングによって小さな成功を収めることで、シード期以降の投資ラウンドにおける投資家向けのマーケティングに役立てることができるかもしれません。

<参考文献>
・Oguz A. Acar, Darren W. Dahl, et al. (2021). The Signal Value of Crowdfunded Products.
・Olav Sorenson, Valentina Assenova, et al. (2016). Expand innovation finance via crowdfunding.