女性役員の比率を高めても、女性管理職は増えない。それどころか組織が崩壊する

内閣府は『女性活躍・男女共同参画の重点方針』において、プライム上場企業に対し、2030年までに女性役員の比率を30%以上とすることを目指すよう求めています。

人口減少の日本において男女を平等に評価し、活用することは当たり前にしなければならないことです。

私の顧客は中小企業が多いのですが、そういった企業の経営者から女性取締役を増やしたほうが良いのかという相談をされる機会も増えました。

個人的な意見ですが、上場しているような大企業以上に、中小企業において女性役員と管理職を増やすことは重要なことです。

なぜなら、中小企業が採用できる可能性のある潜在的な求職者のレベルは女性のほうが高いからです。(※1)

しかし、形式上、女性役員を増やしても何の効果も得ることはできません。

それどころか組織が崩壊しかねません。

(※1 今の日本では人事評価における男女差別が残っており、優秀な男性は実力通りに評価され地位を得ているのでそれを捨ててまで中小企業の転職市場にあまり出てこないため。女性は実力があっても地位を得ていないことがあるので、現状に固執する動機がなく転職市場に出てくる)

出世した女性のパフォーマンスが落ちる理由

出世した時の感情には男女差があります。

野心的な男性は社内で昇進すると喜びが強くなります。もちろん役職にかかるプレッシャーは感じますが、ポジティブな感情の方が優位です。

一方で女性は必ずしもそうではありません。

バリバリ仕事をしたいという野心的な女性であっても、昇進した時に小さくはない不安を感じるのです。

中でも多くの女性が気にするのは「他の社員にどう思われるか?」ということです。

僻まれたり、嫌がらせをされたりしないだろうか?仕事で協力してもらえないのでは?という不安を持ちます。

男性であれば「雑魚の嫉妬など無視するか戦って潰せば良い」と考えられることでも、女性はそうは考えられないのです。

なぜなら「親和欲求(他者と仲良くしたい欲求)」が強いからです。

これは人間が原始的な生活をしていた時代、身体的に弱い女性は戦うよりも仲良くするほうが生存確率が高かったため、その名残などと言われたりします。

昇進することで不安が生じると、脳のパフォーマンスを落としますから、仕事の成果も出にくくなります。

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女性役員や管理職に対して社員は非協力的になる

女性が昇進したとき、周囲の社員はどう反応するのでしょうか?

残念ながら女性の昇進を快く思わない人は男女ともにかなり多いです。

女性同士ではたとえパート従業員の中でリーダーを決めただけでもそれがトラブルの火種になったりします。

「みんな仲良く横一線でなくちゃ」という競争を避けたい心理が強いからです。

男性の場合は女性上司から指示されると反発心を持ちやすいです。特にマイナスな評価をされるとこの感覚は強くなります。

女性の方が下というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を持っているからです。

そして男女ともに女性管理職には非協力的になります。

それによって仕事が滞り、「やっぱり女には無理だった」と責任を押し付けることになります。

このような現象は古臭いジェンダー感を持っている地方の企業ほど起こりがちです。

つまり、社内の人間のレベルも考えずに、取り敢えず女性役員や管理職を増やしてみる、というのは悪手にしかならないということです。

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女性役員を増やしても女性管理職は増えない

女性役員を増やすことで、その下の管理職を増やすことにもつなげたいという経営者もいると思います。

このような効果を期待することはできます。

富裕層の収入が増えると、その波及効果で中間層の収入も増える現象を「トリクルダウン」と言いますが、人事においても同様にトリクルダウンが起こります。

女性取締役が増えると、それに比例して部長や課長にも女性が増えるのです。

しかし、形式上の女性取締役を増やしてもこのトリクルダウンは発生しません。

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取締役会の女性比率を増やすだけでは無意味

エクセター大学ビジネス・スクールのアーロン・ペイジ博士らが英国企業の女性取締役と女性管理職の比率について調査しています。

この調査では女性取締役が増えると、それに伴って女性管理職も増えるという相関関係が分かりました。

しかし、ある時を境にこの相関関係が大幅に弱まったのです。

それはいつかというと2011年です。

この年、イギリスではロンドン証券取引所の代表的な指数「FTSE 350」を構成する企業に対し、取締役会の女性比率を25%以上にするよう勧告が出されたのです。

これにより、女性取締役が急激に増えたため相関が弱まったのです。

女性取締役が活躍できないことの弊害

女性役員の数も管理職の数もその企業の「女性が活躍できるレベル」によります。

なので双方の増え方は相関します。

しかし、規制に対応するために自社のレベルを超えて女性取締役のみを増やしても、それより下の管理職の比率には影響を与えません。

「数字だけ規制に合わせれば良いでしょ」という態度でやっているのだから当然です。

社内の「女性が活躍できるレベル」を上げなければ意味がないのです。

それどころか、形式上増やした女性取締役が活躍できる環境がなければ、他の女性にまで「この会社で出世しても無駄」と思わせてしまいます。

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女性が活躍できない会社は利益も少ない

女性役員や女性管理職を増やしたいからといって、形から入ると効果は期待できないどころか全体の空気が悪くなることがお分かりいただけたでしょうか。

経営者の中には「まずはロールモデルを作ってから」という人もいます。

しかし、社内の環境が整っていないのに、無理に誰かに役職を付けても、生贄になって終わるだけなのです。

女性がマネジメント層で活躍できないのは実力がないからではありません。社内に古臭い考え方があるからです。

このような企業は社員のモチベーションも低いので、女性が活躍できない以外にも、仕事が非効率的で利益が少なく成長も遅いなど様々な問題が山積しています。

女性の役職者を増やす前に、現状として女性役職者がいない社内の問題に目を向けましょう。

実力主義にする必要はありません。男女関係なくやる気のある人間が自由に働ける環境を作れば良いのです。

そのためには足を引っ張る有害な人材に対し、厳しい態度で接する経営者の覚悟が求められます。

余談ですが社内で女性に対して差別的な言動をする男性はオスとしての機能が低下している可能性が非常に高いです。これに関してはコンサルティング時に直接ご説明しています。

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参考文献:Aaron Page, Ruth Sealy, et al. (2024). Regulation and the trickle-down effect of women in leadership roles.