ほんの少しの価格差でも、その表示方法によって消費者に与える印象は変わります。
例えば、2,000円と1,999円では差が1円しかありませんが、後者のほうがかなり安く感じるという人が多いでしょう。
また、「401円と300円」の差と、「400円と299円」の差はどちらも101円ですが、後者の差のほうが大きく感じるのではないでしょうか?
なぜこのようなことが起こるかというと、人間が数値を認識・解釈する際に最も左側(つまり最上位桁)にある数字の影響を受ける心理傾向を持っているからです。
特に、数値の大小や変化を直感的に捉えようとする際、左端の数字が異なると大きな違いを感じる一方で、後続の桁の違いにはそれほど注意を向けないことが多いです。
このような現象を「左桁バイアス(left-digit bias)」といいます。
この言葉を知らなくとも多くの店主が、端数価格が安く見える数字であるという認識で値付けをしています。
しかし、この「左桁バイアス」は常に発生するわけではありません。
2,000円を1,999円に値下げしたからといって必ずしも「買いやすい値段」と思ってもらえるわけではないのです。
では左桁バイアスが生じるにはどのような条件が必要なのでしょうか?
左桁バイアスが生じやすいシチュエーション
左桁バイアスが生じやすいのは比較対象となる他の商品があるときということが、ティルブルフ大学のタチアナ・ソコロワ博士らの実験で分かっています。
この実験ではピーナッツバターの価格を消費者に評価してもらっています。このとき表示された価格の組み合わせは例えば次のようなパターンです。
- $4.00 vs. $2.99
- $4.01 vs. $3.00
評価の結果は「$4.01 vs. $3.00」よりも「$4.00 vs. $2.99」のように左桁の数値の差が大きい組み合わせのほうが、低いほうの金額をより、安く感じるというものでした。
左桁バイアスが生じたということです。
この実験では2つの価格を同時に表示しましたが、1つずつ順番に表示するパターンでの検証も行っています。
「$4.00」を見せた後に「$2.99」を見せるといった方法です。
こちらのパターンでは「$4.00 vs. $2.99」の方が低い金額をより安く感じるということはありませんでした。
左桁バイアスは生じなかったのです。
なぜ同時に表示した時だけ左桁バイアスが生じるのか?
なぜ2つの価格を同時に表示した時にだけ左桁バイアスが生じたのでしょうか?
それには価格の認識方法の違いが関係しています。
同時に表示された場合には2.99ドルは「2」「9」「9」として捉え、4.00ドルは「4」「0」「0」と捉えます。
このとき最も桁の大きい「2」と「4」に注目して比較するので、差が大きいように感じます。
これに対して、1つずつ順番に表示された場合には2.99ドルは「約3ドル」と捉え、4.00ドルも「約4ドル」と捉えますから、差が大きいと感じにくいのです。
このため左桁バイアスが生じないということです。
参考価格との比較でも左桁バイアスが生じる
この実験結果からいえることは、単独で299円と端数価格を表示しても消費者は安いとは感じないということです。
ではその商品が1種類しかない場合に左桁バイアスを生み出すにはどうすれば良いのでしょうか?
それは値下げ前の参考価格を表示することです。
「定価400円のところを299円」といったような表示にするのです。
このように参考価格を表示することで左桁バイアスが生じることも実験で分かっています。
常連客がいつも同じものを買う店では端数価格の効果は限定的
また普段その商品をあまり買わない消費者ほど、目の前に表示された価格で比較しやすいため、左桁バイアスが生じやすいことも分かっています。
反対に買い慣れている人では左桁バイアスは生じにくいです。買い慣れている人はその商品に対して「だいたいいくら」という相場観があるので、そちらとの比較になってしまうからです。
つまり常連客がいつも同じ商品を買っているお店では端数価格を設定しても、その効果は限定的ということです。
また端数価格は安売店の値付け方法というイメージを持っている人も少なくはありませんから、高級店でやってしまうとブランド価値を損なう可能性もありますので注意してください。
参考文献:Tatiana Sokolova, Satheesh Seenivasan, and Manoj Thomas. (2020). The Left-Digit Bias: When and Why Are Consumers Penny Wise and Pound Foolish?