なぜ野球ファンやサッカーのサポーターは負けるとキレるのか?

会社員時代に某プロ野球チームのある地域の部署に配属されたとき、その部署の社員から唐突に「どこファン?」と聞かれたことがあります。

困惑していると、野球はどこのチームが好きか聞いていると補足してくれました。

ビジネスの場では野球、宗教、政治の話はタブーだと思っていたのでかなり驚きました。それになぜ全員がどこかしらの野球チームのファンという前提なのだろう?と疑問にも思いました。

しかし、こういうタイプの社員は決して少なくはなく、特に地元にプロチームがあれば余計にだと思います。

そして、このタイプは野球ファンにせよ、サッカーのサポーターにせよ、贔屓チームの勝敗によって気分が大きく左右されてしまいます。

そして理不尽に周囲の人に当たり散らすこともあります。これは日本だけではなく、他の国でもあります。

興味のない人間からしたら、他人がやっている試合の勝敗でそこまで喜んだり怒ったりする感覚は理解できないかもしれません。しかし、これは心理学的に説明がつきます。

そして、もしあなたの会社の社員に、このようなタイプがいたら、仕事の割り振りを考えたほうが良いかもしれません。

負け試合の後はDVの通報件数が増える

行動経済学者のデイビッド・カードたちがアメリカンフットボールの勝敗と暴力について調査しています。

米国ではアメリカンフットボールが日本でいう野球のような位置づけで、地元チームの試合の視聴率は20%以上あります。

研究者たちは1995年から2006年まで6つのNFLチームの勝敗と、男性が女性へのDV(家庭内暴力)を行う可能性の相関を調べました。

その結果、地元チームが負けた日はDVによる警察への通報が有意に多くなることが判明しました。

特に試合終了後の1時間以内と2時間以内の件数が多くなることからも、贔屓チームの負けが暴力につながりやすいことが分かります。

また、その負け方も影響を及ぼします。勝つであろうと予想された試合で負けたときや、プレーオフ進出がかかった試合で負けたときほど警察への通報件数は多くなるのです。

この調査では勝ったときの影響も調べていますが、勝ったときに暴力による通報が普段よりも減るということはありませんでした。

これは「人間は1万円を拾ったときより、1万円を落としたときのほうが心の動きが大きい」という行動経済学のプロスペクト理論の通りといえます。

勝った喜びは普段からDVをする人間の衝動性を抑えるほどの影響力はないということです。

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人生に自信のない人ほど勝敗に機嫌を左右される

なぜ他人がやっている試合の勝敗にそこまで影響されてしまうのでしょうか?

それは応援しているチームと自分を一体化しているからです。

人間には自分の心のバランスを保つための「防衛機制」という働きがいくつか存在します。

その中の一つに「同一化」があります。分かりやすく説明するなら、その対象と自分を同じものとみなし、自分までそのレベルになったような気になることです。

子供が戦隊ヒーローの真似をするのを考えると分かりやすいです。

応援しているチームが負けたときに不機嫌になるのもこれと同じ心理なのです。

彼らは一流のアスリートと自分を同一のものと感じることによって、自分も強くなった気分になれます。

しかし、試合に負けてしまうと自分が負けたのと同じ気持ちになるので、怒鳴ったり暴力を振るうのです。

このようになってしまうのは自分の人生が上手くいっていない人間や社会的な地位に自信のない人間に多いです。

仕事に熱中しているような人間はそこでの結果が一番なので、他人の勝敗に機嫌を任せるようなことはしません。

もし、あなたの会社の社員が野球やサッカーの試合結果に機嫌を左右されるようなら、もっとやりがいをもって働けるような仕事を与えたほうが良いかもしれません。

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参考文献:David Card, Gordon B. Dahl. (2011). Family Violence and Football: The Effect of Unexpected Emotional Cues on Violent Behavior.