仕事ができない人や能力の低い人ほど自己評価が高いように見えることがあります。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?
理由は2つあります。
1つは人間が「自分は平均よりも上だろう」と勘違いをするバイアスを持っていることです。
そしてもう1つはある分野においての能力が低い人間は、その分野における自分の能力を客観視するメタ認知がうまくできないことです。
このことは心理学の実験でも証明されており「ダニング=クルーガー効果」という名前もついています。
自分は平均よりも上だろうというバイアス
2000年のイグ・ノーベル賞を獲ったコーネル大学の有名な実験があります。
どんな実験かというと、実験参加者に能力を測定するテストを受けてもらうというものです。
ユーモアを評価するテスト、論理テスト、文法テスト、推論のテストを受けてもらっています。それぞれのテストで参加者は異なります。
テストを受けてもらった後で、自分が参加者全体の中でどれくらいの順位にいると思うか予測してもらいました。
成績の悪い人ほど自分を過大評価する
実験の結果、成績の低い参加者ほど実際よりも自分の順位が高いと予測しがちと分かりました。
反対に成績の良かった参加者ほど、謙虚な判断をしていたことも分かりました。実際よりも自分の順位は低いと評価する人が多かったのです。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか?
それは人間には「自分は平均よりも上くらい」というバイアスがあるからです。
1位の人も100位の人も、「自分は30位くらいじゃないかな?」と予測しがちということです。
そのため、低順位にいる人は、自分の予測と実際の順位が最も開くのです。
そしてトップにいる人は自分の予測の方が低くなります。
これに関しては人間が共通して持つバイアスなので無能か有能かに関係なく発生します。
今回のテストで1位だった人間が次回のテストで100位になったとしても「30位くらいだと思う」と予測してしまうということです。
無能な人は自分の能力を判断するメタ認知の能力も低い
自分が全体の中でどれくらいの位置にいるかという予測については能力に関係なくバイアスがかかることが分かったと思います。
実は成績が低い人間に関しては順位だけではなく、能力も正しく判断できないことが分かっています。
さきほどの実験では順位だけではなく得点も予測してもらっているのですが、得点の低い参加者ほど自分の得点を実際よりも高く予測していたのです。
なぜこのようなことが起こるかというと、自分が苦手な事柄に関しては自分を客観的に判断するためのメタ認知もうまくできないからと考えられます。
要するにできない人間は、「自分の能力を判断すること」もできないので、自分は優秀だと勘違いして根拠のない自信を持つことができるということです。
反対にできる人間は「自分が何を分かっていないか」が分かるので客観的に判断できるのです。
また問題を解くときに「こんな簡単な問題だから誰でも解けるだろう」と思って自分の順位を高く評価しなかった可能性もあります。
できる人は謙虚になりやすく、できない人は尊大になりやすいのです。
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ダニング・クルーガー効果
この実験を行ったのはデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーという研究者たちです。
できない人間ほど自己評価が高くなるバイアスのことを心理学で「ダニング・クルーガー効果」というのですが、この2人の名前から取られています。
というよりこの実験から取られています。
給料に文句を言う社員は無能
この「ダニング・クルーガー効果」は一般の会社でも成り立つ論理です。
まず、ほとんどの社員が「自分は全社員の平均よりは貢献している」と考えています。
なので「もっと頑張らなければ」と考える社員は少ないです。あなたの会社の業績が伸びない原因の一つはこれである可能性が高いです。
さらに仕事ができない社員ほど仕事内容や給料に文句を言いますが、能力が低いのでそれ以上の給料で雇ってくれる会社には転職できず、そこに留まります。
そして、その無能な社員の分の給料まで稼いでくれる有能は社員の中には、給料以上の働きをしているにも関わらず、自分の能力を低く評価して不満を持たずにそこにいてくれる人もいるということです。
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無能なのに自己評価の高い社員を放置してはいけない
私は仕事の関係で様々な会社を見る機会がありますが、ほとんどの会社で上記のことが成り立っています。仕事ができない無能な人間ほど仕事と給料に文句を言います。
そもそも職業選択の自由を国の最高法規で認めている国で、仕事内容や給料に文句を言うこと自体があまり頭の良い行動ではないのです。
他の会社に転職するなり起業すれば簡単に解決できることをしていないということだからです。
人間の脳の仕組みを考えれば仕事ができない人間ほど自己評価が高いのは自然なことですが、それを放置していると組織の力が衰えます。
社内のモチベーションを低下させたり、風紀を乱すのは常に自己評価だけは高い無能な社員です。
絶対に放置してはいけません。改善されないようなら辞めてもらうように誘導しなければなりません。
そうしなければ有能な社員が先に辞めてしまうリスクがあるのです。
参考文献:Kruger, J., & Dunning, D. (1999). Unskilled and unaware of it: How difficulties in recognizing one’s own incompetence lead to inflated self-assessments.