同じ店舗で同じ商品を売っていても、その売上は販売員によって大きく異なることがあります。
売れる販売員と売れない販売員の差が数倍あるなどということも珍しくありません。
売れるかどうかは本人のやる気や声掛け、客の見極め、人柄など様々な要因の影響を受けますので「売れる販売員の特徴はこうです」と言い切ることはできません。
しかし、接客のフレーズに限定するとある共通する特徴が存在します。
その特徴とは消費者が持つバイアスを壊すフレーズを使っているということです。
商品の効能を信じるほどに購入する可能性が高くなる
モノを買うときの本質的なことですが、消費者も販売員も忘れがちなことがあります。
それは消費者は商品を買うことによって得られる効能を期待しているから商品を買うということです。
トリートメントを買うのはトリートメントが欲しいからではなく、髪が美しくなるという効能を得るためなのです。
実際に消費者が商品の効能を信じるほどに購入する可能性が高くなることが南カリフォルニア大学のヴァレリー・フォークスらの研究からも分かっています。
「それが欲しいから買うのだ」と言う消費者も無意識に効能を期待しているのです。
消費者が持っているバイアス
ということは効能をアピールすれば売れるようになると思うかもしれませんが、それだけでは不十分です。
厄介なことに消費者というのは販売側がアピールしている効能について「他人には効くだろうけど自分にはそれほど効かないだろう」と考えるバイアスを持っているのです。
このことはウィスコンシン大学などが行った実験からも明らかになっています。
この実験では複数の保湿剤について、「自分にどれだけ効果があると思うか」と「他人にどれだけ効果があると思うか」を評価してもらいました。
その結果、ほとんどの商品において「自分よりも他人に高い効能をもたらす」という評価が下されました。
乾燥肌に悩んでいる人は保湿効果抜群というクリームが販売されているのを見ても「その効能は他の人たちに対してのもの」と考えがちということです。
これは自分自身を振り返ってみても思い当たるのではないでしょうか?
商品の宣伝文句に自分の悩みを解決してくれそうなことが書いてあっても「自分は他の人ほどの効果は得られないだろう」と無意識に思っていないでしょうか?
自分は複雑だが他人は単純と皆が思っている
なぜ私たちは他人には効くだろうけれど、自分には効かないと思ってしまうのでしょうか?
それは人間というのは自分のことを他人よりも複雑で変化しにくい個性的な存在だと認識しているからです。
そして他人のことは単純だと思い込み、単一のセグメントにはめ込んで一般化するのです。
たとえば、あなたがダイエットをしたいと思ったとします。そのときパーソナルトレーニングのジムで痩せた人の体験談を見たとします。
このときあなたは「私は他の人とは今までの運動歴や生活習慣、体質も違うので同じような効果は出ない」と考えてしまうということです。
また実際に何か商品を試し始めても自分の変化には気づきにくいものです。なぜなら自分のことは毎日見ているからです。
見る機会の少ない他人は劇的に変化しているように見えることも、自分に効果はないと考えてしまう理由なのです。
売れる販売員の接客フレーズにある要素
消費者が「自分は他の人ほどの効果は得られないだろう」というバイアスを持っていることが分かればどう接客すれば良いか分かると思います。
まず、「お客様が他の人とは違うことを理解している」という態度を見せることです。人間というのはその他大勢とは違う特別な存在として扱われるだけで気持ち良くなるものです。
そして売ろうとしている商品がそんな人にこそ効果的であるということを伝えるのです。
売れる販売員の接客フレーズには「あなたは他の人と違う」「そんなあなたにこそ効果的」ということを伝える要素が入っているのです。
そのため「他人には効果があるだろうけど…」というバイアスを壊すことができるのです。
参考文献
Evan Polman, Ignazio Ziano, et al. 2020. Consumers Believe that Products Work Better for Others.
Valerie S Folkes, Ingrid M Martin, Kamal Gupta. 1993. When to Say When: Effects of Supply on Usage.