世の中に出回るデマや都市伝説はたくさんあります。
最近ではインスタやX(旧ツイッター)などのSNSでも急速にデマ情報が拡散されるようになりました。
クライアントの中にもそういったネット上のデマ情報を信じてしまっている人が少なくありません。
高額セミナーや情報商材を売りつけたいビジネス系インフルエンサーのような人々がまき散らす嘘を信じてしまっていることもあります。
芸能人の結婚ネタくらいであれば仮にデマだったとしてもそれほど損害はありませんが、ビジネスに関する内容のデマはかなり危険です。
それを信じて経営判断をしてしまう可能性もあります。
私がその情報は完全にデマだということを根拠を基に説明しても、しばらくするとデマだということを忘れてしまっていることもあります。
なぜ人間はデマと知らされた後でも真実だと記憶してしまうのでしょうか?
信じられやすいデマには共通点がある
大勢が本当だと信じている内容でもテレビ番組などで「嘘でした」と伝えるとしばらくは話題にならなくなります。
しかし数年するとまた本当の話のように語られることがあります。
例えば「おしどり夫婦」などと比喩にも使われるオシドリですが、実はこの鳥は毎年パートナーを変えているし繁殖期しか一緒にはいないのです。定期的にネタになることですが、オシドリは一生を同じ相手と添い遂げると思っている人は多いでしょう。
このように一度「嘘です」と知らされた後も真実として記憶されたままになったり、何かの意思決定に影響を与え続けてしまうデマにはいくつかの共通する特徴があるのです。
柑橘系のジュースで薬を飲むと効かない?
ホフストラ大学のアン・ハンビー博士らのグループは人間がある情報をデマと知らされた後もその影響を受ける可能性があることを実験で明らかにしています。
この実験ではまず、参加者たちに「病気のキャラクターが薬を飲んでも治らない」という内容のストーリーを読ませました。
そして、あるグループには「飲む時間を間違えているから薬が効かなかったのだ」と知らせ、もう一方のグループには知らせませんでした。
その後に両グループともキャラクターがレモネードのグラスで薬を飲んだと伝えられます。
そして柑橘系のジュースと一緒に飲むと薬は効かないとも教えられます。
最後に両グループとも柑橘系のジュースで薬を飲むと効かないというのはデマだと知らされます。
翌日に参加者たちは薬が効かなかった原因を思い出すよう言われました。
その結果、飲む時間を間違ったからという理由を教えてもらえなかったグループの参加者たちは嘘だと教えられたにも関わらず、柑橘系のジュースについて言及したのです。
ギャップを埋めてくれるデマは信じやすい
この実験結果から分かることは何でしょうか?
それはたとえそれが嘘と分かっていても、「ストーリーを完成させてくれる情報」である場合には強い影響を及ぼすということです。
薬が効かなかった理由として「飲む時間を間違えていたから」という情報を知らされていなかった参加者たちには「なぜ?」という疑問が生じます。
ストーリーが完成していない状況です。実験を行ったアン・ハンビー博士らはこれを「ギャップ」と呼んでいます。
たとえデマ情報でもそのギャップを埋めてくれるといつまでも脳内の真実フォルダに残り続けてしまうのです。
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昆布茶には精神的なパフォーマンスを高める効果がある?
別の実験では、参加者に「ポーカープレイヤーが昆布茶を飲むのが好きだ」という内容のストーリーを読ませました。
そして一方のグループには昆布茶は精神的なパフォーマンスを高める効果があると知らせます。
もう一方のグループには昆布茶は筋肉の機能を増大させる効果があると知らせます。
そしてどちらのグループにも最後にはそれらの効果はデマだと教えます。
この実験では精神的なパフォーマンスを高める効果があると知らされたグループはその情報が真実であるとして思い出す可能性が高くなりました。
適度な関連性と理解を助けるデマも信じやすい
こちらの実験から分かることは、適度な関連性とストーリーの理解に寄与する情報は真実と思い込みやすいということです。
ポーカーと昆布茶の話では精神的パフォーマンスの向上と筋肉機能の増大という2つのデマが伝えられた。
ポーカーに関連づけしやすいのは精神的なパフォーマンスです。
そのため、こちらのデマを知らされた参加者のほうが真実と思い込みやすかったのです。
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「人はつまらない真実よりも面白い嘘を信じる」
一連の実験結果からいえることは、人間は納得しやすくて理解を助けてくれる情報はデマと知らされた後も真実として記憶されてしまう可能性があるということです。
世の中の人がいつまでも信じているデマの多くがこれらの条件を満たしています。
「人はつまらない真実よりも面白い嘘を信じる」と言われますがまさにその通りなのです。
胡散臭いコンサルタントや自称専門家のそれっぽい話に騙されないように注意しなければなりません。
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楽観的な人は要注意
余談ですが、楽観的過ぎる人は特に注意したほうが良いでしょう。
実は最初の薬のストーリーの実験では結末にハッピーエンドとバッドエンドの2パターンが用意されていました。
そして、バッドエンドを読まされた参加者の方が「柑橘系のジュースで薬を飲むと効かない」という嘘情報からの影響が継続し難かったことを発見しました。
(※柑橘系と一緒に飲むべきではない薬は実際に存在する)
最後に悪い結果につながることは情報の真贋を覚えておきやすいということです。
これは人間の生存戦略として悪いシチュエーションに関連する情報はしっかりと覚えておかないと次回同じことが起こったときに対応できなくなるからです。
逆の視点で見れば、物事を楽観的に考えすぎる人間は情報をしっかり精査しないので、デマを信じやすいともいえます。
参考文献:Anne Hamby,Ullrich Ecker,David Brinberg(2019)How Stories in Memory Perpetuate the Continued Influence of False Information.