田舎で起業するなら愛着を持てるかが重要。地元出身でなくとも成功する要因

田舎で起業したいと考えているなら、そのエリアに愛着を持てるかどうかを確認しましょう。

愛着が持てるならたとえ出身地でなくとも、メリットを受けられる可能性があります。

都会か田舎かに関わらず、その地域に愛着を持てるかどうかが、業績に影響を与えるのです。

起業するなら東京か田舎か?

起業する際に「やっぱり東京でやるべきでしょ」と思う人も多いです。

都会は顧客数も多いですし、色々な可能性を秘めているように思えます。田舎では顧客が獲得できるのか不安もあります。

東京に限らず、大阪や福岡といった都会でビジネスを展開したほうが、成功確率が高いと考えている人は多いです。

しかし、顧客が多い場所というのはそれだけライバルも多い場所ということです。

例えばGoogleで「東京 コンサルティング会社」と検索すると数えきれないほどの企業サイトが表示されます。

一方で「鳥取 コンサルティング会社」と検索したときには、ほとんど出てきません。企業サイトではなく、それを紹介するブログ記事やローカルサイトなどが多く出ていたりします。

人口に対する企業数でいえば、田舎のほうが高い業種は意外に多いのです。

ですから、田舎で起業するのは悪いことではありません。

スタートアップの創業メンバーは同じ業界から採用するほうが成長は早い?

愛着を持てる場所で起業することのメリット

ただし、単にライバルが少なそうだからという理由で田舎を選ぶことはおすすめできません。

そこに愛着を持てるかどうかをきちんと考える必要があります。

愛着を持てるかどうかが起業の成功に影響することがあるのです。

なぜ地元出身のCEOはCSR活動(社会貢献活動)に積極的なのか?

ロンドン大学のレイ・ジチェン博士らの研究によると、地元出身のCEOが率いる企業はCSR活動(社会貢献活動)に多くの資源を投入していることが明らかになっています。

CSRスコアは4.3%高く、経済的なインパクトとしては、企業の純利益の約7%に相当する規模となっています。

なぜ地元出身のCEOほどCSR活動に積極的かというと、地域に対する愛着があるからです。

実際に「地元への愛着」が強いCEOほど積極的にCSR活動を行うことも分かっています。愛着があるほど「地元に恩返ししたい」という気持ちが強くなるからです。

顧客とサプライヤーからの信頼が高まる

CSR活動に積極的だからといって、起業の成功に何か関係があるの?と思うかもしれませんが、関係あるのです。

この研究では、地元出身のCEOが率いる企業はCSR活動を通じて顧客との信頼関係が強化され、製品やサービスに対する顧客満足度が高くなりやすいことも確認されています。

これにより、企業は価格を引き上げても顧客離れが起こりにくく、利益率の維持につながります。

また、従業員の満足度も高く、特に地元出身のCEOが地域社会に貢献する姿勢は、従業員の誇りや信頼感を高め、生産性の向上に寄与します。

加えて、サプライヤー(供給元)からの信頼も厚くなることも判明しました。これにより有利な取引条件を引き出し、柔軟な資金運用が期待できるのです。

経済危機でも強い

もう一つ面白い発見があります。それは、経済危機などの困難な状況のときに、地元出身の社長がCSR活動を行っている会社が強いということです。

例えば、2008年の金融危機や2020年の新型コロナウイルスのパンデミックの時期、地元出身の社長がCSR活動を行っている会社は、株価(会社の価値)があまり下がらなかったのです。

上場していないスタートアップや中小企業にとって株価は関係ないかもしれませんが、株価が下落しなかった要因は重要です。

なぜ株価が下落しなかったかというと、利益の落ちが少なかったからです。その要因は地元の人々や取引先がその会社を信頼し、支え続けたからだと考えられます。

つまり、社会情勢が不安定な時でも、CSR活動が地域社会との強い信頼関係を築き、その信頼が企業を支える重要な要因となり得るということです。

CSR活動への取り組みが企業にデメリットをもたらす事例

出身地ではないエリアで起業してもメリットを受けられる

ここまで紹介したメリットは地元出身であることによってもたらされるというよりは、そのエリアに対する愛着があるからこそもたらされるものといえます。

地域に対する愛着があるからこそ、CSR活動に積極的となり、それを見た地元の顧客や取引先から信頼され、ビジネスにつながるのです。

ですから旅先で気に入った地域にIターンして起業をしても同じような効果が得られることはあります。

私の顧客は中小企業の社長さんが多いですが、地元の活動に協力的な人が多いです。

地鎮祭やボランティア活動に積極的です。寄付などもしています。学生の職業体験への協力をしているところもあります。

このような活動をしている人は昔から地元で育った人ばかりかというと、そうとも限りません。

他所のエリアから来たけれど「ここで商売をさせてもらっているのだから少しでも地域に貢献したい」という思いを持って協力している人も少なくありません。

そして、そのような人は地元からの信頼も厚くそれがビジネスにつながっていることもあります。顧客としても自分の地元を大切にしてくれる経営者には良い印象を持ちますから当然のことでしょう。

ですから、その地域に対して愛着を持てるのなら、田舎での起業も一つの選択肢として悪くないといえるでしょう。

とはいえ、あまりに閉鎖的すぎる田舎では何年経っても余所者扱いで受け入れてくれないこともあります。

3代住んでも余所者扱いといったような田舎はエリアそのものが衰退していきますから、進出するべきではないでしょう。

一口に田舎といっても様々ですから、見極めが重要です。既に進出している他社の動向を確認すると参考になるかもしれません。

参考文献:Zicheng Lei, Dimitris Petmezas, et al. (2021). Local boy does good: CEO birthplace identity and corporate social responsibility.