地方の中小企業の人手不足への対策。人数ではなく「礼」で考えて解消する

中小企業基盤整備機構の調査データでは、中小企業の約3割が人手不足によって「経営に支障が出ている」もしくは「このままでは支障が出る」と回答しています。

コンサルティング先の企業と話していても人手不足は深刻な問題であり、特に地方の中小企業でこの傾向が強いです。

人口減少、雇用条件の悪さ、採用活動掛ける予算の少なさなどが原因となっています。

人手不足の解消法としては業務プロセスの見直し、社員教育による生産性向上、待遇や職場環境の改善、外注などがよく挙げられます。

確かにこのような対策を取ることは必要なことです。

しかし、それ以前にもっと重要なことがあります。

「人手不足」という中小企業の経営者が見落としていること

人手不足に悩んでいるという中小企業の経営者は、社員が何%の力を発揮しているか考えたことがあるでしょうか?

実は多くの経営者がここを見落としています。

今いる社員が100%の力を発揮してくれれば仕事は回ることに気が付かず「もっと人を増やさなければ」と考えているのです。

なぜこのように考えてしまうかというと、自分の仕事に対するモチベーションが高いため、そこを基準に判断してしまうからです。

「自分ほどではないにしても、自分の80%くらいの本気度は持っているだろう」と考えてしまうのです。

そのため現有戦力には余力がないと考えてもっと採用しなければと勘違いをするのです。

社員が力を発揮できないのは怠け者だからではありません。環境が整っていないからです。

社員のモチベーションを下げる悪質な人材が存在しているのです。

そしてそれを放置しているせいでまともな社員のパフォーマンスが落ちて人手不足になっているのです。

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社員を減らすと人材不足は解決する

人数は十分なのに一部の悪質な人材のせいで慢性的な人手不足に陥っている中小企業は多いです。

悪質な人材には主に2種類います。

失礼なタイプと無駄な仕事を作るタイプです。

失礼なタイプ

失礼なタイプというのは言葉の通り礼儀を欠いた人間のことです。

ジョージタウン大学の研究者らの調査によれば、社内に失礼な社員がいると、他の社員が意図的に仕事に掛ける時間や労力を減らし、その質も落とすことが分かっています。

また失礼な社員と接すると嫌な気分になりますが、この気分を切り替えるときに使う脳の認知のリソースは莫大です。

ここで無駄に認知のリソースを使うと仕事に向けるべき分も減りますから、パフォーマンスが落ちるということが複数の実験で判明しています。

つまり失礼な社員が一人いるだけで、全体のパフォーマンスが落ちるのです。その落ちる量は失礼な社員が出すパフォーマンスよりも大きいのです。

会社全体のトータルで考えたら、失礼な社員は辞めてもらったほうがプラスになるということです。

実際に態度の悪い社員が退職したことで全体のパフォーマンスが上がる事例はコンサルティング先の企業で何度も見ています。

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無駄な仕事を作るタイプ

人手不足に悩む中小企業にはたいてい無駄な仕事を作るタイプの社員がいます。特にホワイトカラーの管理職に多いです。

経営コンサルティングが入るときに最も嫌がるのもこの人たちです。

このタイプは無駄な業務プロセスを付け足したり、意味のない報告や会議をすることで自分の居場所を作ろうとしているため、業務の見直しによってそれがバレることを恐れているのです。

こういった無駄な仕事を作るタイプのせいで、現場の人間が社内のための仕事に時間を奪われて人手不足になるのです。

私が今まで見てきた中小企業でも「人手が足りない」と言っているところは、企業の規模に対してホワイトカラーが多すぎるパターンが珍しくありませんでした。

このように無駄な仕事を作るタイプも失礼なタイプと同様に存在していることで人手不足に拍車を掛けているといえます。

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社員に100%の力を発揮してもらう方法

当然のことですが、上記の2種類のタイプを切っただけで人材不足が解消するということはありません。

今まで50%の力しか発揮していなかった社員が70%の力を発揮してくれるようになるくらいでしょう。

これだけでも十分な効果ですが人材不足を解消するには100%の力を出してもらわなければなりません。

そのためにどうすれば良いのでしょうか?

それは主体性を持ってもらうことです。

人間の脳は自分で決めると主体性を持つ

経営者が仕事に対するモチベーションを高く持っている理由は主体性があるからです。

自分の会社なので当然です。全てのことを自分で決められますから「自分事」と捉えられるのです。

主体性には「自分で決めた」という感覚が必要なのです。

ですから社員に主体性を持って欲しければ決めさせることです。

作業手順のほんの小さなステップであっても「自分で決めた」という感覚が主体性を生むのです。人間の脳はそのようになっているのです。

それらの体験がいくつも積み重なることで会社全体を「自分事」と思い、100%の力を発揮するのです。

社員は最高の広報担当!だから大切にしましょう

社員を大切にすることでも主体性は生まれます。例えば休日を増やすことです。

人手不足の中小企業は労働時間を増やすことでそれを解決しようとするので有給取得率が低いです。

しかし、これが良くないのです。

有給をたくさん取るように奨励すれば、休みを取るにはどうすれば良いか自分達で考えるようになり、経営陣では思い浮かばないような改善策が出てくることもあるのです。

実際にこのパターンで業績を伸ばしている企業はいくつもあります。

地方の場合はリアルなクチコミの影響も軽く見てはいけません。

社員を大切にしなければ悪い評判はあっという間に広まりますから、ブラック企業と思われ人材募集に応募してくれる人もいなくなります。

反対に社員を大切にしていれば、社員が広報担当の役目を果たしてくれるのです。

ウォルマートは創業者のサム・ウォルトンが社員からアルバイトまでの全員を大切にしたから、「ウチの店は最高だよ」と皆が宣伝してくれたのです。

人手不足を嘆く前に社員に対する見方を変えてみましょう。経営者が社員に「礼」を示すと会社は変わります。

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<参考文献>
・中小企業基盤整備機構『中小企業・小規模企業者の人手不足への取組状況に関する調査(2023年)』
・Christine Porath『Mastering Civility: A Manifesto for the Workplace』