会社の売却を考えた際に、M&Aの仲介会社に依頼することもあるでしょう。
しかし注意が必要です。
中小企業のM&Aを仲介する会社の多くは使い物にならないのです。
それどころか問題点を抱えた怪しい会社もかなり多いと思ってください。
トラブルに巻き込まれないためにもきちんと実情を知っておきましょう。
M&Aの仲介をしている会社は登録しているだけでも2,897社
かつてM&Aで会社を売ることは「身売り」というネガティブなイメージで捉えられていました。
しかし、最近では財務基盤の安定や販路拡大、後継者不足の解消法などM&Aのメリットが広く知られるようになりました。
中小企業の有効な経営判断の一つとなったともいえます。
それに伴い売手と買手を結び付けるM&Aの仲介会社も増えました。
2023年のデータによると、M&A支援機関として中小企業庁に登録している会社だけでも2,897社があります。
この中でM&Aの仲介を専門とする企業は632社と最も多く、他は税理士、コンサルティング会社、金融機関などがあります。
私の顧客にも「会社を売りませんか?」というM&Aのしつこい営業電話がよく掛かってきます。
☑M&Aを従業員に説明するとき「心理的契約」に注意して話さないと失敗する
M&Aを仲介する会社の問題点
これだけのM&A仲介会社がありますが、その多くが何らかの問題点を抱えていると思った方が良いでしょう。
どのような問題点があるか具体的に挙げると以下の通りです。
- 買手を見つけられない
- 担当者にM&Aの知識がない
- 売れる会社を単なる商品として見ている
- 情報が漏れる
それぞれについて詳しく説明します。
【問題点1】買手を見つけられない
会社を売りたいという依頼を受けた仲介会社は買手候補のリストを作ります。そして売手が「ここなら売っても良い」と思える買手候補に打診していきます。
まともなM&Aの仲介会社であればその候補の中のいくつかとはコネがあり、直接もしくは第三者を通すことで確実にアポが取れます。
しかし、ほとんどの仲介会社はそういったコネがないため、いきなり電話やメールで連絡するしか手段がありません。
そのような方法で会ってもらえる確率は低いため、買手を見つけられないのです。
見つかったとしても売手の希望条件が全く通らないような買手であることが多いです。
単に安い労働力を大量に手に入れるための手段としてM&Aを利用する買手もいます。
【問題点2】担当者にM&Aの知識がない
仲介会社の担当者は「M&Aのプロです」のような顔をしていますが、日本にM&Aのプロはほとんどいません。たいていは自称プロの素人です。
さきほど中小企業庁にM&A支援機関として登録されている会社だけでも2,897社あると書きましたが、日本国内におけるM&A件数は約4,300件(2022年)です。
これは1社あたり平均で1.4件のM&Aしか手掛けていないということです。
しかもこれは中小企業庁に登録している会社のみの計算なので全ての仲介会社を合わせたら、1社あたりの取り扱いはもっと少ないことになります。
会社として年間に1社か2社しか手掛けていない中でどうしてプロや専門家になれるというのでしょうか?
余談ですが自称専門家やプロほど知ったかぶりをすることが研究でも分かっているので誤った知識に騙されないように注意しましょう。
会社を売却したオーナーが「あの条件を付帯しておけば良かった(orあの条件は飲むべきでなかった)」と後悔する内容はある程度共通します。
なので契約前にそれらを確認させるべきなのですが、自称プロはそういうことを知りませんから、オーナーは会社を売ってから後悔することになります。
【問題点3】売れる会社を単なる商品として見ている
そもそも仲介会社の担当者はコンサルタントを名乗っていたりしますが、やっていることは営業マンと同じです。
前職では投資用マンションを売っていたような人間もいます。
売るものがマンションから会社に変わっただけで、やっていることは変わりません。片っ端から営業電話を掛けまくるだけです。
なので彼らにとって会社は商品です。売り払って仲介手数料を得ることが目的なので買収された後の従業員がどうなるかなど知ったことではありません。
こういった仲介会社に依頼すると碌でもない買手に売らざるを得ないという事態も起こります。
余談ですが転職サイトで「M&Aコンサルタント募集」と誤魔化して書いている会社はこのタイプが多いです。
営業やテレアポ要因を「コンサルタント」「アドバイザー」という名目で募集するのはブラック企業の常套手段です。
【問題点4】情報が漏れる
会社を売却する際には契約が完了するまでその情報が漏れてはいけません。
噂には尾ひれがつくので業界内で「あそこの会社は危ないらしい」と言われるリスクがあります。
また自社の社員に知られて要らぬ動揺を与えたり、キーマンとなる社員が退職してしまう可能性もあります。
しかし情報を漏らしてしまう迂闊な仲介会社は少なくありません。
例えば買手候補への打診の段階で情報を出し過ぎたせいで社名を特定されてしまうことがあります。
どこまで出して良いかという勘所が全く分かっていないのです。
売却しようとしている情報が出回ると「あの会社はまだ売れていないのか、よほど魅力のない会社なんだな」となります。
このような「擦られた案件」になると会社に魅力があっても、何か裏があると勘ぐられて売れなくなります。
それどころか自社の情報がライバル社に漏れます。
☑︎なぜCFO(最高財務責任者)のキャリア志向がM&Aを失敗させるのか?
まともなM&A仲介会社の選び方
まともなM&A仲介会社のほうが少ないのでそれを探すのは難しいです。
それでも依頼しなければならないとき参考となるポイントは次の通りです。
しっかりとした買手候補とコネクションがある
公になることはありませんが、まともなM&Aの仲介会社の社長や役員は著名な創業者の個人的な相談相手になっているというケースもあります。
クライアントのM&Aの際にとある仲介会社の社長と買手候補の社長を回ったことがありますが、中にはとんでもない大物もいました。
失礼ながら「こんな小さなM&Aの仲介会社の社長がこんなコネクションを持っているのか!」と驚きました。
自社の売却を検討したときに依頼するべき仲介会社はこういった会社です。しっかりとした買手候補とコネクションがある会社です。
もちろんその買手候補が買うとは限りませんが、しっかりした会社とコネがあるということは過去の実績がきちんとしているということです。
これは会話の中で知ることができます。具体的な社名を出してくれることはありませんが、それなりの企業と直接のコネがなければそういった話し方はしないだろうと雰囲気で分かります。
M&Aの仲介をやっている理由をしっかりと持っている
良い仲介会社はそれぞれがM&Aの仲介に自分なりの理想を持っていることが多いです。
例えば中小企業を再編して日本経済の成長につなげるとか、後継者不足を解消するとか様々です。
それは必ずしも熱い想いとは限らず、冷静なデータ分析によるものかもしれませんが、とにかくなぜ中小企業のM&Aをすべきかという自分なりの答えを持っていることが多いです。
そしてそれを自分の言葉で説明できます。
これも直接会って話せば建前で言っているのか本心で言っているのかは分かります。
手付金が高額なところは避ける
M&Aの仲介会社の手数料には成功報酬と手付金があります。手付金はM&Aが成約しなくても返却はされません。
絶対ではありませんが、手付金が高めに設定されている仲介会社は問題だらけの怪しいところが多いです。
この手の仲介会社は手付金だけで儲けようとしているので、売れる可能性の低い会社からの依頼でも引き受けます。
しかし買手が見つかることはありません。あったとしても驚くほど安い金額で買い叩かれることになります。
手付金無しで成功報酬のみでやっている会社も多いですが、これらの会社は成約の見込みのない案件は断ります。
複数の仲介会社に断られたら、自社は価値がないと冷静に判断したほうが良いでしょう。
だからといって一生売れないわけではありません。事業を再生して魅力を高めれば良いのです。
【注意】一度でも話を聞きにいくとその後はしつこく営業してくる
全てのM&Aの仲介会社がそうだとは言いませんが、一度でも説明を聞きに行くとその後はしつこく営業をしてきます。
特にあなたの会社が魅力的であればあるほどしつこさは増します。
中小企業のM&Aでは良い会社が自分から「売りたい」と言うことは滅多にないからです。このチャンスを逃すまいと必死になるのです。
なので話を聞きに行く前からある程度の選別が必要となります。
こちらから電話をしたときに後ろで他の社員がテレアポをしている声が聞こえてくる会社は絶対にやめたほうが良いでしょう。このタイプの仲介会社は不動産と同じ感覚で会社も売ろうとします。
【おまけ】どうしても仲介会社を探せないなら…
付き合いのある銀行にM&Aの仲介会社を紹介してもらうというのも一つの手です。
銀行も自分たちの評判まで悪くなるのは避けたいので怪しい会社は紹介しません。
銀行の中には自分たちで仲介を手掛けたり、グループ内にM&Aアドバイザリーの会社を持ってているところもありますが、小さい会社の案件は手掛けていないこともあります。
また同じ銀行でも支店や部門によってM&Aに全く力を入れていないところもあるので、こればかりは状況次第としかいえません。
とにかくM&A仲介の会社と専任契約を結ぶ前にしっかりと見極めることが大切です。