「Pay What You Want(PWYW)」という支払い方法を導入しているサービスが少しずつ増えてきました。
PWYWとは日本語にすると「望むだけ支払う方式」となり、顧客が製品やサービスに対して支払う金額を自分で決めるという仕組みです。
良いと思えば高い金額を支払ってくれますし、悪いと思えば安い金額しか支払ってくれません。
この方法は一見すると利益を度外視したモデルに思えるかもしれません。しかし博物館や慈善事業、さらには一部のレストランや音楽業界など、さまざまな分野で成功事例が生まれています。
例えば、ニューヨークのメトロポリタン美術館や、イギリスの大英博物館が長年PWYW方式を採用してきたことが知られています。また、オンラインメディアの「The Guardian」や「Wikipedia」も、このモデルで大規模な寄付を集めています。
このPWYWでいくら払ってもらえるかというのは、製品やサービスの品質だけで決まるわけではありません。
どうやら先払いか後払いかによっても金額が変わってくるようです。
支払いタイミングと商品価値がPWYWに与える影響
マーケティングの専門家であるラガベンドラ・プラタップ博士らが支払いのタイミングがPWYWの金額にどのような影響を与えるのか調べる実験を行っています。
後払いのほうが2.5倍も高く支払ってくれる
この実験では、参加者全員に参加謝礼として現金5ポンドが提供されました。
その後、Amazonギフトカード(5ポンド)を参加者に見せ、このギフトカードをPWYW方式で購入できることを説明しました。
実験の参加者は、前払いするグループと、後払いするグループのどちらか一方にランダムに割り当てられました。そしていくら支払うかを決定しました。
その結果、前払いするグループの参加者が平均で0.32ポンドを支払ったのに対し、後払いするグループの参加者の平均支払額は0.81ポンドでした。
つまり、後払いのほうが高い金額を支払ってくれたということです。
この実験のポイントは「5ポンドのAmazonギフトカード」という明確にその価値が判断できる商品で大きな差が生じたということです。要するに支払いタイミングがいくら支払うかに大きな影響を与えているということです。
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商品の価値による違い
次の実験では実際のレストランで飲み物をPWYW方式で提供しました。
ここで調べるのは、商品の価値の高低によって、先払いと後払いの金額に違いが生じるかということです。
この実験で提供される飲み物は、コーラやファンタといった市販(高価値条件)のものと、ミルクシェイクなどの自家製のもの(低価値条件)でした。
顧客の支払った金額を分析したところ、高価値条件では「購入後」の支払いが「購入前」を上回る効果が確認されました。先の実験と同じ結果です。
しかし、低価値条件では、この効果が弱まり、場合によっては「購入前」の支払いが「購入後」を上回るケースもありました。
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支払いのタイミングによってPWYWの金額が変わる理由
なぜ支払いのタイミングによってPWYWの金額が変わるのでしょうか?
まず、後払いの金額が増える理由として、先に製品の提供を受けることで「相手が自分に対してすでに価値を提供してくれた」という認識が芽生えることが挙げられます。
それによって提供者への義務感や感謝の気持ちが強まり、自分も適切な対価を支払うべきだと感じるので高い金額を支払うのです。
この傾向は特に高価値の商品で顕著となります。その理由は商品の価値が高いほど、提供者が負担したコストや努力が明確になるため、消費者の返礼意識が強化されるからです。
一方で、低価値の商品の場合には、こうした社会的交換の意識が弱まる傾向があります。
低価値の商品では、提供者が負担したコストや努力が消費者にとってさほど重要視されず、社会的交換そのものが「形式的」なものとして捉えられる可能性が高いからです。
その結果、消費者は提供者への義務感を感じにくくなり、支払い意識が低下してしまうのです。
PWYW方式を導入する際には、商品やサービスの価値を見極めて、支払いのタイミングを決めることが大切そうです。
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参考文献:KC, R. P., Mak, V., & Ofek, E. (2023). Before or After? The Effects of Payment Decision Timing in Pay-What-You-Want Contexts.