値上げをしても客離れをさせないためにどうすれば良いのでしょうか?
それは商品と関係ない情報を与えて脳に負荷を掛けることです。例えば飲食店であればメニュー表にちょっとした情報を載せるのです。こうすることで価格の変化に対する敏感さが低下します。
そして一度でも値上げ価格を受け入れてもらえれば、人間の持つ「自分の行動の一貫性を保ちたい」という欲求によって、再び買ってもらうことができるのです。
具体的にどんな情報を載せれば良いかという一例として、男性客にはローカルを意識させる内容、女性客にはグローバルを意識させる内容が効果的とされています。
価格感応度は脳の状態の影響を受ける
値上げによる客離れを防ぐには価格感応度を下げることが重要です。
価格感応度とは文字通り、価格の変化に対する消費者の反応のしやすさです。
少しの値上げでも売上が大きく減るようなら、その店の顧客の価格感応度は高いといえます。
反対に売上がほとんど変わらないのであれば、価格感応度が低いということです。
価格感応度は消費者の収入やその商品に対する愛着など様々な要因によって変化します。
それだけでなく、そのときの脳の状態の影響も受けます。この習性を利用することで、値上げを受け入れてもらいやすくすることができます。
脳に負荷がかかると値上げを受け入れやすくなる
人間の脳は何かを処理するときに、認知に負荷がかかります。なのでコンピューターと同じように、一度に処理できる情報量には限度があります。
何か困難な処理をしている時は負荷が高まりますから、他の事を考えるリソースはなくなります。
例えば難しい計算をしているときに、誰かに話しかけられても上の空になってしまったりします。
実はこのように負荷が高まっている状況のとき価格感応度も低下するのです。
つまり、値上げを受け入れやすくなるということです。
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アイデンティティの不一致が認知負荷を高める
この認知の負荷を高める方法の一つとして、アイデンティティの不一致があります。
アイデンティティとは日本語で「自我同一性」などと訳されますが、自分は何者か?という認識です。
アイデンティティは社会との関わりにおいて認識することもあります。
例えば、グローバルなアイデンティティを持つ人は、自分を「世界市民」や「グローバルな存在」として捉え、地域や国界を越えた広範なつながりの中に自分が存在していると認識しています。
それに対して、ローカルなアイデンティティを持つ人は、自分を地域社会やコミュニティに結びつけ、身近な人々とのつながりや地元の文化の中に自分が存在していると認識しています。
そして、自分のアイデンティティと矛盾する情報に接したとき、人間の脳は大きな負荷が生じます。
この状態のとき、目の前の商品が高いか低いかということを意識しにくくなり、値上げを受け入れやすくなるのです。
女性にはグローバル情報、男性にはローカル情報
実際のレストランを使って、アイデンティティの矛盾が価格感応度にどう影響を与えるのか調べた、ビクトリア大学のフアチャオ・ガオ博士らの実験があります。
この実験では顧客に以下のメニューのうちどちらかをランダムに渡しました。
- グローバルなアイデンティティを想起させる情報を載せたメニュー:地元コミュニティのサポートや地域ニュース、地元文化の保護などを重視する情報
- ローカルなアイデンティティを想起させる情報を載せたメニュー:国際的なビジネスやニュース、異なる文化への関心を促す情報
そして実験期間の途中でメニューを値上げしました。
値上げ前と後の注文数の差を比較したところ次のことが分かりました。
- グローバルなアイデンティティを想起させられたとき女性の注文量は変化しない
- ローカルなアイデンティティを想起させられたとき男性の注文量は変化しない
つまり女性はグローバルなアイデンティティを想起させられたときに、値上げを受け入れやすく、男性はその逆ということです。
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一度でも値上げ後の価格を払った顧客はまた来る
一時的に値上げを受け入れてくれたとしても、次から来店しなくなってしまうのでは?と思うかもしれません。
確かにそういう顧客も発生するでしょう。値上げする以上、ある程度は仕方のないことです。
しかし、一度でも値上げした価格を受け入れてもらうことが非常に重要なのです。
なぜなら人間は自分の行動の一貫性を保ちたいという欲求を持っているからです。
つまり、一度でも値上げ後の価格を支払ってしまうと、次回のお店の選択において「あの店は値上げしたからもう行かない」とはなりにくいのです。
値上げしたから行かないという選択をすることは「過去の自分は無駄なお金を払ったのだ」と、自分の行動を否定することになり、脳が不快感を覚えてしまうからです。
それとこれはかなり余談というか個人的な考えですが、この物価高の世の中で、少しの値上げに文句をいうような客は面倒なタイプが多いので、無理につなぎ留める必要もないかと思います。
その客に対応する時間と労力で何人の優良客に対応できるか考えましょう。
参考文献:Li, Y., & Xie, Y. (2020). Is a Picture Worth a Thousand Words? An Empirical Study of Image Content and Social Media Engagement. Journal of Marketing Research, 57(1), 1-19.