「静かな退職」の原因と対策。Z世代以外にも広がる最低限の仕事しかしないスタンス

ここ数年、働き方や労働観に大きな変化が訪れています。その中で注目を集めているのが、「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる勤務態度です。

静かな退職とは、実際に会社を辞めるのではなく、職場での取り組みを最低限の範囲にとどめるという考え方や行動を指します。

具体的には、仕事として課された最低限の義務は果たすものの、それ以上の努力や貢献を控えるという姿勢です。

たとえば、残業をしない、他人の仕事を進んで手伝わない、会社の目標に深く共感せず、自身の生活や健康を優先する、といった態度が挙げられます。

「静かな退職」は特にミレニアル世代やZ世代といった若手で顕著といわれることがありますが、それより上の世代でも職場でのストレスや非効率な文化に対応する手段としてこの姿勢を取り入れています。

海外の調査ですが、働く人の約50%が職務へのコミットメントを意図的に制限しているというデータもあります。これは私がコンサルティングに入った先の企業を見た感覚とも合っている気がします。

会社によっては半分以上の社員が静かな退職をしているように見受けられるところもあります。

静かな退職のメリットとして燃え尽き症候群の回避や職場での精神的健康の向上、ワークライフバランスが保たれることなどが言われたりしますが、一方でやりがいの喪失によるメンタルヘルスの悪化などが言われることもあります。

組織として見た場合には、生産性の低下やチーム全体の士気に悪影響を及ぼす可能性、競争力が低下するリスクなど、圧倒的にデメリットが多いといえます。

ですから、可能な限り静かな退職を防ぎ、やりがいを持って働いてもらう必要があります。

「静かな退職」の原因

「静かな退職」という言葉は2022年頃にSNSや動画サイトを発端に拡散したといわれています。

それ以降、静かな退職に関する研究も増えています。

それらの研究によると、静かな退職の原因として次のようなものが挙げられます。

原因1. 適切な評価がされないことによる自己重要感の欠落

上司からのフィードバックが不足したり、成果に対する正当な報酬や承認が得られないと従業員は適切に評価されていないと感じます。

すると自分が組織にとって重要な存在ではないと認識し、やりがいを感じなくなります。

この感覚が続くと、やがて職務への関与が薄れ、必要最低限の仕事しか行わない「静かな退職」の兆候が見られるようになるのです。

原因2. キャリアアップと成長への不安

会社がキャリア開発やスキル向上のための機会を提供しない場合、成長を求める従業員は将来の展望に不安を感じます。

特に、昇進のチャンスが公平に与えられなかったり、教育や研修プログラムが不足していると、モチベーションが低下し、静かな退職の可能性が高まります。

このようなマイナスな環境は特に中堅や若手に強く悪影響を与えます。

キャリアの初期段階で成長の機会が不足すると、従業員は「静かな退職」をしつつ、転職の準備を始めることもあります。

原因3. 従業員の意欲の欠如

ルーチン化された業務ばかりやらされると、従業員は創造性を発揮する機会や達成感を得る機会が少なくなります。その結果、仕事への興味や熱意が失われることがあります。

また、長時間労働や過度な業務負担が続くと、従業員は精神的にも肉体的にもエネルギーを消耗し、労働意欲が著しく低下します。

これらの要因が複合的に作用することで、従業員は業務に対する責任感を減少させ、職場での貢献を最低限に抑えようとする傾向が強まります。

原因4. 意思決定からの排除

従業員が組織の重要な意思決定プロセスに参加できないと「自分が組織において重要視されていない」「自分の意見は無価値と評価されている」と感じることがあります。

具体的には組織の戦略やルール変更に関する議論に従業員が参加できなかったり、フィードバックが軽視されたりした場合です。

このような場合に感じる排除感は職務に対するエンゲージメントの低下を引き起こし、静かな退職へとつながります。

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原因5. 過剰な管理による自律性の欠如

過度に管理的なリーダーシップや細かい監視の下では、従業員が自律的な意思決定を行う余地が狭められるため、仕事に対する責任感や創造性が抑圧されやすくなります。

このような環境では、従業員が自身の役割や成果に対する所有感を持つことが難しくなります。

その結果、業務に対する意欲が低下したり、ストレスを感じることが増え、静かな退職へとつながります。

原因6. 組織に対する信頼の低下

評価や報酬が不公平だったり、会社が従業員に対して示した約束や期待を守らない場合、信頼関係が大きく損なわれます。

また、パンデミックによるリモートワークへの対応のような急激な職場環境の変化に対して、会社が適切に対応できない場合にも信頼の低下が生じます。

危機的な状況下で、リーダーシップが不十分であったり、従業員の健康や安全が十分に考慮されていないと感じられる場合、組織の能力や誠実さに対する疑念が生まれます。

信頼が失われた状態が続くと、従業員は組織に対する貢献を減らし、必要最低限の仕事だけを行う「静かな退職」に至る可能性が高まります。

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静かな退職への対策

人手不足で人材の価値が高まっているにも関わらず、多くの企業が従業員のニーズに応えることに失敗していることを示す研究が数多く発表されています。

その結果として、従業員が静かな退職を選択するようになっています。

静かな退職を選択した従業員の多くは、組織が従業員を価値ある個人として扱わない限り、組織にコミットするつもりはないと考えていることも分かっています。

静かな退職から復活してもらうためには次のような対策が有効とされています。

対策1. 職場文化の改善

職場文化の改善には、従業員を単なる資源として扱うのではなく、一人ひとりを価値ある個人として尊重することが求められます。

そのためには、配慮と思いやりを重視し、従業員が安心して働ける環境を構築することが重要です。

特に、無礼な態度や排他的な行動、非倫理的な慣行、過度な競争、権力の乱用といった毒性的な文化を排除する必要があります。

また、従業員に対して感謝と称賛の意を表し、その努力を適切に認める文化を作ることが、意欲やエンゲージメントの向上につながります。

対策2. 従業員の幸福を優先する

従業員の幸福を優先するためには、彼らの精神的、身体的、そして経済的な健康を重視することが大切です。

そのためには、適切な労働時間の管理やストレス対策、公平な報酬の提供といった取り組みが必要です。

また、ワークライフバランスを尊重し、仕事が生活全体を支配しないような環境を整えることで、従業員がより充実した人生を送れるよう支援することが求められます。

対策3. キャリア開発の機会を提供する

キャリア開発の機会を提供するためには、まず従業員が自らの成長と発展の道筋を明確に認識できるよう、キャリアパスを具体的に設定することが重要です。

また、専門的なトレーニングや能力開発プログラムを通じて、従業員のスキル向上を支援する仕組みを整備する必要があります。

さらに、組織の目標や戦略を従業員に適切に伝え、彼らの役割が組織全体の成功にどのように貢献しているかを理解させることで、従業員のモチベーションを高めることが求められます。

これにより、従業員が組織の一員としての意味や価値を実感し、仕事への意欲やコミットメントを向上させることができるのです。

対策4. 経営者と管理職のリーダーシップの再定義

静かな退職への対策として管理職が従業員に対してより効果的な指導者となることも求められます。

そのためには、管理職を「コーチ型リーダー」として育成し、従業員を指導し、必要なサポートを提供するスキルを強化することが重要です。

また、経営者自身が共感力やコミュニケーション能力を向上させ、従業員との信頼関係を築くことが必要です。

対策5. 仕事に意義を感じられる環境を整える

従業員が仕事に意義を感じられる環境を整えることが重要でです。

具体的には、従業員が自分の業務が組織のビジョンやミッションにどのように貢献しているのかを理解できるようにする必要があります。

また、意義のあるプロジェクトや役割を提供することで、従業員が自身の潜在能力を最大限発揮できるよう支援することが求められます。

このような取り組みは、従業員のモチベーションを高め、組織全体の成果向上にも繋がるといえます。

<参考文献>
・Nastja Pevec. (2023). The Concept of Identifying Factors of Quiet Quitting in Organizations: An Integrative Literature Review.
・Thalmus Mahand & Cam Caldwell. (2023). Quiet Quitting – Causes and Opportunities.