起業するときはどのようなビジネスモデルにするのかと同様に、誰と始めるかも非常に重要です。
それぞれの強みを最大限に発揮できる仲間と組めば企業の成長も早くなります。
そこで今回はスタートアップの創業時のメンバー集めと、それが業績の伸びにどう影響するのかを調べたデータを紹介します。
創業メンバーと出身業界・企業
スタートアップの創業メンバーを採用する際には手掛けようとしているビジネスと同じ業界の出身者のほうが良いのでしょうか?
また、メンバー同士が同じ会社で働いていた経験があったほうが連携がスムーズになるので成功確率は高まるのでしょうか?
スタートアップのメンバーの関係を業界と会社で分類すると以下の4パターンに分けることができます。
- 同じ業界の同じ会社出身
- 同じ業界の異なる会社出身
- 異なる業界の同じ会社出身
- 異なる業界の異なる会社出身
この4パターンのうち最も成長するスタートアップを作れるのはどれなのでしょうか?
ライマン大学アリソンビジネススクールのニロン・ハシャイ博士たちがそれを調べた研究があります。
スタートアップ大国イスラエル
対象となったのはイスラエルに拠点を置くハイテク産業のスタートアップです。
イスラエルは不思議な国で「起業のしやすさを感じるか?」と国民に問うアンケートでは日本と同じくらい低評価にも関わらず、国民1人当たりのスタートアップ投資の調達額は世界一で優秀な起業家がひしめいています。
ユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上が期待される未上場企業も人口比では世界一です。家庭内での教育や遺伝子が起業に向いているのではないかという説もあります。
話が逸れましたがこれらのスタートアップが公開している財務諸表や目論見書、そして創業メンバーのLinkedinなどから取得したデータを分析しました。
業界経験とトランザクティブ・メモリー
分析の結果、最も売上高の伸びが大きいのは同じ業界の同じ会社出身の創業メンバーがいるスタートアップでした。次に伸びていたのは同じ業界の異なる会社出身の創業メンバーがいるスタートアップでした。
手掛けている事業と同じ業界出身のメンバーのほうが売上が伸びやすいということです。
このような結果になる理由として創業間もないスタートアップにおいては、創業メンバーの経験や知識が意思決定を形成する重要な要因となりその成長に影響を与えるため、異なる業界よりも同じ業界での経験の方が仕事に直接活かされやすいからと考えられます。
同じ業界の中でも同じ会社出身のメンバーのほうが売上が伸びている理由としてはトランザクティブ・メモリーの影響が考えられます。
トランザクティブ・メモリーとは社会心理学者ダニエル・ウェグナーが提唱した理論で「誰が何を知っているのかを知っていること」です。
同じ会社で働いていた人間同士であれば「あの人はこの分野についての知識がある」ということを認知しているため効率的に仕事が進むということです。
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能力の罠(competency traps)
しかし、注意しなければならないことがあります。
創業初期に急成長を見せたからといって、それがいつまでも続くとは限らないのです。
実は今回の研究ではスタートアップの成長を創業初期と後期に分けて分析しています。
その結果は4年か5年目を過ぎたあたりから同じ業界出身のメンバーがいるスタートアップの売上は落ち始めるというものでした。
最終的には同じ業界の同じ会社出身のメンバーのいるスタートアップの落ち込み方が最も大きくなりました。その次が同じ業界の異なる会社出身のメンバーがいるスタートアップでした。
なぜこうなってしまうかというと、前職での経験を活かして創業初期にうまく成長できたため、その成功体験をいつまでも引きずってしまうからです。
そして従来のやり方に固執することでイノベーションが生まれにくくなったり、環境に適応できなくなるため売上が落ちてしまいます。これを「能力の罠(competency traps)」といいます。
最終的に最も高い売上を維持していたのは異なる業界の同じ会社出身のメンバーがいるスタートアップでした。
能力の罠に陥ることなくトランザクティブ・メモリーの利点のみを活用し続けることが出来たからといえるでしょう。
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参考文献:Niron Hashai, Shaker Zahra. 2020. Founder team prior work experience: An asset or a liability for startup growth?