一度辞めた会社に再び入社する出戻り社員が増えています。中にはそれを積極的に受け入れている企業もあります。
アルムナイ(同窓生)採用などと呼ばれることもあります。
企業側からすると教育の手間が少ない点や即戦力として期待できる点がメリットといえるでしょう。
被雇用者の約4~5割が退職した会社に戻ることを検討したことがあるという調査結果もあります。なので企業側が受け入れ制度を整えれば出戻り社員はますます増えるでしょう。
しかし本当に出戻り社員は高いパフォーマンスを発揮するのでしょうか?新規採用した社員と比べて優秀なのでしょうか?
今回はそれを定量的に調べた研究を紹介します。
出戻り社員が成果を上げやすい条件
コーネル大学のJR・ケラー助教たちは米国のヘルスケア企業の2009年から2016年までの1万人以上の人事データを分析し、出戻り社員と新規採用された社員ではどちらが優秀なのかを調べました。
その結果は出戻り社員のほうが高い成果を上げているというものでした。
特に人間関係や事務的な事柄について厳しい調整が多い仕事においてこのような傾向が見られました。
また新人の割合が低く勤続年数の長い管理職がいる部署において、出戻り社員は成果を発揮しやすいという結果も出ています。
出戻り社員がこのような高い成果を発揮するのは過去の経験によって得た知識があるからと考えられます。
☑︎中小企業の採用が上手くいかないのは面接官の態度が悪いからだ
出戻り社員のデメリット!既存社員のほうが優秀
今回紹介した研究は「Academy of Management Journal」という経営学の世界でも権威のある学術誌に載った論文なので知っている人もいたかもしれませんし、自社でも出戻り社員の受け入れを検討しようとした経営者もいるかもしれません。
しかし注意してほしいことがあります。実は出戻り社員と辞めずに働いていた社員では後者のほうが成果が高いというデータもあるのです。
つまり出戻り社員は新参者と比べれば優秀だけれど、既存社員と比べるとそうでもないということです。
また既存社員の中には出戻り社員を歓迎しない人間もいます。
特に会社が厳しい状況のときに辞めていった社員には裏切り者というイメージを抱いている人もいるでしょう。
上司となった元後輩に対して偉そうな態度を取ってしまう出戻り社員もいます。さらに出戻り社員は2度目の退職をする確率が高いというデータもあります。
中小企業の場合は悪影響の方が大きいのでオススメしない
ここからは私の個人的な意見となるのですが、中小企業の場合には出戻り社員の受け入れはあまりオススメしません。
なぜならデメリットの方が大きいからです。
ネガティブな理由で出戻ってくるケースが多い
これは私の周りを見渡した限りの話なので定量的なデータはありませんが、中小企業に出戻る社員はネガティブな理由を抱えていることが多いです。
転職先で思ったほど活躍できなかったとか、昇給や昇進ができなかったとか、(書類上は自己都合だが実質)解雇されたなどです。
本人は黙っていても同じ業界であれば後からそういった話は回ってきます。
つまり、他の会社で大きく成長したのでそれを元居た会社に還元して恩返ししようという理由で戻るのではなく、食いっぱぐれて戻ってくるのです。
他社から「使えない人材」という烙印を押されて返品されたということです。
自社で雇っていた時には気づかなかったかもしれませんが、他社基準でハッキリ無能と評価してくれた人間をもう一度雇う必要はないでしょう。
そもそも国内には400万社以上の会社があるにも関わらず、わざわざ出戻るというのはそこしかアテがないということです。
仮に他社の可能性があったとしても「前にいた職場のほうが楽だろう」という甘えた考えを持っている可能性が高いと思ったほうが良いでしょう。働かないおじさんになるリスクもあります。
少なくともベンチャー企業には向かない人材です。働ける年数は有限なのに再び同じ会社に勤めようという人間は好奇心や冒険心がないからです。社長としてスカウトされて出戻るなどであれば別ですが。
「気軽に出戻りできる会社」というイメージが出来たら終わり
中小企業が出戻り社員を受け入れる最大のリスクは会社の空気が悪くなることです。
彼らは会社に戻らせてやっても感謝しないことのほうが多いです。最初こそはそういった態度を見せるかもしれませんが一ヶ月もすれば古参社員のように振舞います。
そして自分がいない間に入社した新規採用者に対して偉そうにマウントを取ったりします。場合によっては長年勤めている社員に「外の世界を知らない」などと言い出すことさえあります。
最も問題なのが、無能な社員を出戻りさせることで他の社員が「気軽に出戻りできる会社」というイメージを持ってしまうことです。
つまりケジメのない安っぽい会社という感覚を持ってしまうのです。そうなると自社にプライドが持てずに従業員エンゲージメントも低下し、仕事の質も落ちます。
そして「この程度の会社だし、いつ辞めても良いか」という気持ちにもなりやすいのです。
例えは悪いですが、別れても簡単に復縁できる恋人を大事にしようと思うか?ということです。
出戻り社員を受け入れるときは新人を雇うよりは楽だからと近視眼的に考えるのではなく、長い目で見た場合に組織にとってプラスとなるかという視点で考える必要があります。
また社員の出戻りが軽々しく行われているような企業は、新規採用者と比べて本当に優秀なのか見直す必要があります。
参考文献:JR Keller, Rebecca Kehoe, et al. 2021. In with the Old? Examining When Boomerang Employees Outperform New Hires.Academy of Management JournalVol. 64, No.6