「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は社会人の基本だぞ」と新人の頃はよく言われていた気がします。(きちんと出来ていたかは忘れてしまいましたが…)
正しい情報が共有されなければ、本人が困るだけではなく、会社が大変なことになってしまいます…
経営者の中にも社員が正確な情報を伝えてくれないという悩みを抱えている人も少なくないです。
そして、きちんと伝えない社員はいつも決まっていたりします。
そうです、無能な社員ほど嘘をつくのです。
なぜなら「自分を大きく見せたい」という心理が強いからです。
無能な社員ほど「自分を大きく見せたい心理」を持つ理由
ビジネスの世界でも政治の世界でも「権力は腐敗する」と言われることが多いです。
実際、数々の企業スキャンダルや経営陣の不正行為の事例がこれを裏付けています。
しかし、「権力がないこと」も腐敗を生み出す原因となるのです。
会社で言うなら、無能で地位の低い社員も不正をするのです。特に仕事に関する成果において嘘をつくことが多いです。
なぜなら無能な社員ほど「自分を大きく見せたい」という心理が強くなるからです。
無能であるがゆえに地位の低い社員は、「自分は社内で価値ある存在と見なされていない」と感じがちです。
人間には「他者から尊重されたい」という欲求がありますから、社内におけるこのような認識のされ方は不快な状態となり、劣等感にもつながります。
すると、その劣等感を埋め合わせるために自己の成果や能力を過大に表現しようとする動機が強まるのです。
社会的地位にコンプレックスを抱えている人がブランド物を買う行為を心理学で「代償的消費(Compensatory Consumption)」と言いますが、社内で自分を大きく見せようとする行為はこれと同じメカニズムとされています。
「盛った実績」がブランドと同じ役割を果たすのです。
研究でも無能ほど盛ることが判明
無能な社員ほど「自分を大きく見せたい心理」を持っていることは、ジョージア工科大学とコーネル大学の研究者らが行った研究でも分かっています。
研究では、まず企業の幹部を対象に、権力レベルが業績報告にどのような影響を与えるか調査しました。
その結果、自己の業績を発表する場面では、権力が低い人ほど報告内容を誇張する傾向が高いことが確認されました。例えば、完了していないプロジェクトをあたかも完了したかのように話し、得た収益も実際より高く見積もって報告するケースが見られたのです。
次に、大学院生を対象にした調査では、権力が低い状況下で自らの研究成果を誇張して報告する可能性が高まることが示されました。例えば、まだ査読中ではない論文を「査読中」と記載して報告するなどの行動が観察されました。
さらに、一般的な労働者を対象とした調査でも同様の傾向が確認されました。
地位の低い労働者は顧客との契約締結状況を誇張し、実際には未契約の案件をあたかも成約済みと報告する割合が高かったのです。加えて、権力が低いことが自己評価の低下につながり、それが「自分を大きく見せるための嘘」を引き起こす一因となることも確認されました。
無能な社員を放置することの危険性
社内で無能な社員が「自分は凄いんだ」と誇張しているくらいであれば、周囲が飽きれるくらいで済むと思うかもしれません。
しかし、このような痛い社員がいると周囲の人間の脳の認知リソースが無駄に消費され、全体のパフォーマンスが落ちます。
また、顧客と契約できていないのに「出来ている」と嘘をつかれたり、トラブルが生じているのに黙っていられたら、直接的な被害が生まれます。
ですから経営者としては、無能な社員の「自分を大きく見せたい」という心理を抑制してあげる必要があります。
そのためにどうすれば良いのでしょうか?
経営者やマネージャーが取るべき対応
実は今回の研究では、無能な人間であっても、自己肯定感を高めるための操作(ex自分の大切にしている価値観について考えさせるなど)を行うことで、自分を大きく見せるための嘘をつかなくなることも分かっています。
つまり、経営者やマネージャーとしては、評価されていない社員の自己肯定感を保つ機会を提供することが重要です。
具体的には、フィードバックの際に個々の業績を評価し、努力や成果を公正に認めることが効果的でしょう。「評価されていない」と感じる社員が自身の価値を認識できれば、不正行為を未然に防ぐだけでなく、組織全体の士気向上にもつながります。
また、自己肯定感を高める支援として、定期的なキャリア面談やスキルアップの機会を提供することも有効です。
自己の成長や目標達成を実感できる環境を整えることで、自分を大きく見せるための嘘をつく必要がなくなり、より真摯な態度で業務に向き合えるようになるでしょう。
参考文献:Huisi (Jessica) Li, Ya-Ru Chen, John Angus D. Hildreth (2022) Powerlessness Also Corrupts: Lower Power Increases Self-Promotional Lying. Organization Science 34(4):1422-1440.