現在の変化の激しいビジネス環境においては、トレンドを予測することの重要性がますます高まっています。
商品が大流行してから問屋に発注していたのでは店頭に並べるまでに時間が掛かりますし、在庫切れで仕入れられない可能性もあります。
また、自社のウェブサイトで新サービスを発表しても、それが検索エンジンに上がってくるまでには時間が掛かりますから、流行する前にページを作っておきたいところです。
このようにトレンドを正しく予測できないと儲けのチャンスを失ってしまいます。
とはいえトレンド予測の精度は人によって大きくバラつきがあります。
何も考えなくても直感的に次に来るものが分かるという人もいれば、あらゆるデータを分析しても外してしまうという人もいます。
生まれ持ったセンスも大きく関係するものと思われます。
もちろんセンスも鍛えることは可能ですから、繰り返すうちにトレンド予測の精度も上がっていくといえます。
そこで今回はその助けとなるであろうポイントを紹介します。
注目すべきは消費者の情動の強さです。ポジティブであろうとネガティブであろうと、情動の強さがトレンド予測のヒントとなります。
良くも悪くも情動を動かすことでトレンドが生まれる
分かりやすい事例としてマサチューセッツ大学のマシュー・ロックレイジ博士らの研究を紹介します。
この研究では映画のレビューサイトでそれぞれのタイトルごとに最初に投稿された30件のクチコミを分析しました。
具体的には「Evaluative Lexicon」という分析ツールを使ってクチコミの情動性を評価したのです。
これは良い評価か悪い評価かということではありません。どれだけ感情が込められた言葉が使用されているかです。
たとえば「awe-inspiring(畏敬の念を抱かせる)」という単語と「impeccable(非の打ち所がない)」という単語では前者のほうが情動性が高いといえます。
この分析から分かったことは、情動性の高いクチコミが多い映画ほどその後にヒットする可能性が高いということです。
なぜこのような結果になったのかというと、情動を呼び起こされた体験は記憶に残りやすく友人などとの会話でも話題に出やすくなるため、それがクチコミを広めヒットにつながるからです。
それが初期段階であればあるほど、残りの上映期間は長くなるため、より多くの客が来るということです。
☑︎消費者ニーズを読み間違える理由。「フォールス・コンセンサス効果」が起こるとき
レストランを人気店にするには感情を揺さぶれ
今回の分析では星の数と映画がヒットするかどうかに相関はないということも分かりました。高評価だからとヒットするとは限らないのです。
またアマゾンの本やレストランの評価サイトでも同様の分析を行ったところ、クチコミの情動性の高さとその後の人気に相関があることが分かりました。
感情に根ざした言葉をどれだけ使っているかという視点でクチコミ内容を確認すると、公開されたばかりの映画やオープンしたばかりのレストランが人気になるかどうか予測できるというわけです。
反対に、経営するレストランを人気店にしたければ、オープンしたばかりの頃に来てくれた客の感情を揺さぶることが大切ということです。
プラスにもマイナスにも人々の感情をザワつかせるものがトレンドになるという事例は私たちの身の回りに多く溢れています。
例えばYouTuberやInstagrammerなどのインフルエンサーがビジネスになり始めたとき、熱狂的なファンだけではなく、強烈なアンチも発生しました。
そのため良くも悪くも様々な場所で話題に上がり、急速に知名度を得て、今ではマーケティング戦略に欠かせない存在にまでなっているのです。
また、都会の人には理解しにくい感覚かもしれませんが、田舎では新しい店ができるとき、たとえそれがよくあるチェーン店であっても、オープン前から住人の間で噂になることがあります。
中には「あんな下品な店なんか誰も行くわけない」と否定的な感情を多くの住人から持たれてしまうお店もあります。
しかし、この否定的な人々が色々な場所で話題に出すので、それによってお店の存在が周知され、最初から繁盛店となることも多いのです。
「ニシタン、タン」のCMでお馴染みの『にしたんクリニック』を運営するエクスコムグローバル株式会社の西村誠司社長もインラビューで次のように言っていました。
「新しいCMを流した時、初動3日間ぐらいのSNSでアンチ意見が多い場合はそのCMはすごく人気が出ますね」
オウンドメディアや投資にも活かせる
口コミの熱量からヒットを予測することは、エンタメや飲食以外の経営者にも利益を与えてくれます。
映画が公開された直後や本が発売された直後にそれらがヒットするか予測できれば、早めにオウンドメディアなどで取り上げる準備ができるので消費者が注目する頃には他社に先行できます。
また株価にも影響する可能性がありますから、投資判断にも活かせます。(あくまで投資は自己責任ですが)
自分が面白いと思うものと世間でヒットするものにズレがあるという経営者は口コミの熱量という視点を持ってみると、センスを磨くことができるかもしれません。
マクドナルドの藤田田社長が社員に映画を見せた理由
日本マクドナルドの創業者である藤田田(デン)社長は会社のお金で毎月1回、全社員に強制的に最新の映画を見せていたそうです。
その映画が流行する背景には民衆のどのような心理状態があるのかを想像させ感性を磨かせたのです。
実際に周りを見渡しても自分の興味のアリナシに関わらす、成功している経営者は流行りものは抑えておくというタイプが多いように思います。
トレンド予測の第一歩は映画館に行くことかもしれません。
ちなみにカナダ・トレント大学の研究によると『トスカーナの贋作』のような芸術的な映画を見ると、他人の感情を読む能力が高まることが分かっています。
さらに夫婦で恋愛映画を見た後でそれについて語り合うと、カップルカウンセリングを受けたのと同じくらいの効果が得られるという研究もあります。
水野晴郎さんの言う通り「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」なのです。
参考文献:Matthew D. Rocklage,et al.(2021).Mass-scale emotionality reveals human behaviour and marketplace success.