起業家に向いている人の特徴とは何でしょうか?
多くの人は「アイデアを生み出す能力」や「行動力」だと思うかもしれません。確かにそれらも重要な要素でしょう。
しかし、それだけではなく「自己効力感が高いこと」も重要な特徴であることが研究によって分かりました。
自己効力感とは
自己効力感とは「自分はうまくやれる」という信念や確信のことです。つまり、自分の能力を信じて挑戦する力とも言えます。
英語のまま「セルフ・エフィカシー(self-efficacy)」と呼ばれることもあり、心理学者アルバート・バンデューラによって提唱された心理学上、非常に重要な概念です。
自己効力感が高い人は未知の状況や困難な課題に直面しても、それを「乗り越えられるもの」として前向きに捉えます。
たとえば、学生時代のテスト勉強で「時間をかけて頑張れば結果を出せる」と思ったり、スポーツの試合で「練習の成果を発揮すれば勝てる」と信じる気持ちがこれに当たります。
仕事においては、新しいプロジェクトを開始するときに、「自分にはこの仕事をやり遂げるスキルと知識がある」と思える信念です。
この自己効力感は単なる楽観主義とは異なります。
楽観主義が「うまくいくだろう」と結果を期待する気持ちであるのに対し、自己効力感は「自分の力でどうにかできる」という行動への確信に根ざしたものなのです。
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1,405人の起業家を対象とする調査
自己効力感とビジネスの成功について1,405人の起業家を調べた、ポツダム大学のマルコ・カリエンド教授らの調査があります。
この調査では起業家たちに「困難に直面しても自分はうまくやれると思うか?」などの複数の質問を通じて、彼らの自己効力感を数値化しました。
そして、起業から19カ月後のデータを用いて、以下の4つのポイントを調べました。
- 生存率:ビジネスが続いているかどうか
- 収益:月々の収入がどれくらいあるか
- 雇用創出:従業員を雇っているか
- 革新性:新しい発明やアイデアを生み出しているか
調査の結果、自己効力感が高い起業家ほど起業の成功率が高いことが明らかになりました。
具体的には自己効力感が高い人はビジネスの生存率が平均より4%高く、収益も約8%増加する傾向が確認されました。
さらに、従業員を雇う確率が8%以上高く、新しいアイデアを形にする革新性についても特許出願や商標登録を行う確率が18%高いという結果が得られました。
また、女性起業家の場合は自己効力感が生存率に特に強い影響を及ぼすことが分かっています。
自己効力感の高い起業家が成功する理由
なぜ自己効力感の高い起業家ほど成功するのでしょうか?
それは自己効力感が行動や思考に大きな影響を与えるからです。
今回の調査を行った研究者たちは、自己効力感が高い人ほど困難に直面した際に「これは自分を成長させるチャンスだ」と捉え、失敗を挫折ではなく学びの機会として活用できる特性が強いことを指摘しています。
また、目標達成に向けた努力を続ける粘り強さや、逆境に負けずに行動を続ける姿勢も、自己効力感が高い人に共通して見られる特徴とされています。
これらの特徴が、スタートアップにおいて日常的に発生する、市場の変化や資金繰りの問題、予想外のトラブルを乗り越える力となるのです。
また、自己効力感が高いことで、未知の分野にも積極的に挑戦し、学びながら成功に近づいていくことができることも成功の要因です。
起業の成功のためにも自己効力感を強化しよう
自己効力感は生まれつきの性格だけで決まるものではなく、後天的に高めることができる力です。
これは努力や経験を通じて徐々に強化されます。たとえば、小さな成功体験を積み重ねることで、「自分にはできる」という自信が自然と育まれます。
また、周囲のサポートも大きな役割を果たします。友人や家族、メンターといった人たちからの励ましや具体的なアドバイスは自己効力感を後押しします。
同じ目標を持つ仲間と交流することや、専門的なトレーニングを受けることが効果的です。
実践的なスキルを学びながら成功事例を共有することで、「自分にもできる」という実感が得られ、自己効力感がさらに高まります。
また、失敗から学ぶ姿勢も重要です。一度の失敗で諦めるのではなく、それを次へのステップと捉えることで、逆に自信が強化されます。
このように、自己効力感は日々の積み重ねと周囲の支えを通じて、誰でも育てることが可能です。
起業の成功のためにも自己効力感を強化しましょう。
参考文献:Caliendo, M., Kritikos, A.S., Rodríguez, D. et al. Self-efficacy and entrepreneurial performance of start-ups.